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冒険者狩りのイケヤ

ある日、世界中の全ての生命は《異能》を手に入れた。《異能》を手に入れた獣達によって人類文明は半壊。人類の領域は大きく減衰した。人類は獣達に対抗するため、優秀な《異能》を持つものを育て、冒険者(ハンター)として武器の保有や公共施設の優先利用権などを認め、街の防衛や旧人類領域の調査などを命じた。



 ここはそんな冒険者(ハンター)を養成する冒険者養成学校。人生一発逆転を狙ってやってきたはいいものの、一番稼ぎやすい駆逐科(スレイヤー)からは《異能》の評価が足りず落とされ、危険な割に稼ぎが出にくい探検科(チャレンジャー)か仕事を取りにくい支援科(サポーター)のどちらかしか選べない。まあ、駆逐科は獣との戦闘がメインだから身体能力評定がBで平均より少し上なのに、肝心の《異能》評定はCなどという地味異能じゃハナから無理な話だったか。

「止めてください!」

 通りの向こうから不穏な声が聞こえてくる。そちらを向くとなにやら一人の女子生徒に三人ばかりの男子生徒が詰め寄っていた。特に目を引くのはその中で最も大柄な男だ。服の上からでも分かるほどに鍛え上げられた筋肉。俺がなれなかった駆逐科の生徒で間違いないだろう。周りを見渡すと皆が皆見て見ぬふりをしていた。なるほどな、あんな事は日常茶飯事なのかあの男子生徒が鼻つまみ者なのか、どちらにしろ関わるのは得策とはいえない。それでも。俺はあの日誓った約束に、嘘をつくわけにはいかない。もう、見てみぬふりはしない。俺は大柄な男子生徒へ近づいた。

「あんた、嫌がってるじゃないか。止めてやれよ」

「あぁ? 誰だぁお前ぇ」

 男が振り返る。覚悟を決めろ。意志を貫け。

「俺の名前は鷹山海里(たかやま かいり)。あんたは?」

「お前! (たけし)さんの事を知らないのか?」

「お前さては新入生だな?」

「ああ、つい先日入学したばっかりだ」

「じゃあ、先輩への口の聞き方を教えてやらねぇとなぁ?」

 三人の注意がこっちへ向いた。剛と呼ばれた奴が指を鳴らす。そうだ、こっちを見ろ。痛いのは嫌だが、苦手じゃない。好きなだけ殴るがいい。

「ぜひご教授願いたいね」

「お前! 強がりも大概にしろよ、膝が震えてるぞ!」

 剛の取り巻きの内、やたらと声のデカい奴がなにか喚く。いいぞ、膝がノッてきた。リズムを刻め。剛の肩が動く。そして剛の右拳が……消えた。

「……ッ!?」

 全力で体を倒した。体中の毛が風を伝えてくる。

「剛さんの《異能》は身体能力倍化、Aクラスの《異能》なんだ!」

 身体能力倍化、その言葉が正しければ剛の拳はすさまじい威力を秘めている事になる。パンチというものは全身の筋肉を使う行動だ。ただの二倍などでは済まない。それに奴の体はもともとから力が強そうだ。当然、当たったら死ぬ。

「丁寧にご説明ありがとさん。だが、当たらなければどうってことないだろう?」

「おめぇ、楽しませてくれるんだろうなぁ?」

 もっとだ。もっとリズムを刻め。体を揺らせ。空気にノれ。それが俺の《異能()》だ。

 剛のジャブが大気をえぐり、ステップで空気が悲鳴をあげる。圧倒的な力。それを全て避ける。相手の動きに、空気に気を配る。リズムに身を任せる。

「ちょこまかちょこまかとぉ!」

 剛が地面を踏み鳴らした。体が浮く。そこに下からアッパーが昇り強かに俺の体を打ち据えた。

「ガッ……!?」

 普通なら死んでいた。どうせこの《異能》があっても瀕死なことに変わりはなかったが。剛がこっちにやってくる。動けない。体が熱い。息をするのが辛い。目だけで奴を睨む。

「ったくよぉ、手こずらせやがって」

 剛が俺を踏みつけようとしたその時、俺の体が勝手に転がった。剛の踏みつけで地面が揺れ、俺の体が空へ舞う。地に落ちて情けない声が出る。

「んん? 今よけたなぁ?」

 そこへ、やたらと爽やかなイケメンが駆けつけた。

「そこまでだ! 金塚剛(きんづか たけし)! 貴様の悪行、お天道様が見逃してもこの竜童大輝(りゅうどう たいき)が見逃さん!」

「竜童ぉ、またお前かぁ?」

「貴様も懲りないな金塚! 変ッ! 身!!」

 大輝の体を謎の光が覆っていき、日朝風味の鎧に包まれていく。色は眩いばかりの赤。

「年貢の納め時だ金塚ァ!」

 大輝は高く飛び上がると剛へ跳び蹴りをお見舞いした。腕で受けた剛を大きく吹き飛ばし、自身も遥か後方へ降り立つ。

「ここいらが潮時かぁ」

「お! 覚えとけよ!」

「チッ」

 それぞれ捨てぜりふを残して去っていった。

「大丈夫!?」

 目で声のする方を見ると先ほどの女子生徒がいた。どうやら助けを呼んでくれたのは彼女のようだ。ありがたい。そして俺は目を閉じた……







「スーッ……」

 屋上で一人の男子生徒が息を吐く。彼は中庭で起こった事の顛末を全て、()()()()()()()。タン……と舌を鳴らす。その瞬間、彼の頭の中に学校全体の地図が書き上げられる。タン……タン……と続けて鳴らし、動く人や風の流れを写しだす。運ばれる男子生徒、それにすがる女子生徒、高笑いをする男子生徒や三人で歩く生徒達、全てが彼の頭の中で動いている。視られている。

風読み(エア・ディレクション)か……これは無敵時間(ヒーロー・タイム)、いやそれ以上の……」

 その時、彼の携帯に電話がかかる。

「はい、学園長。なにか?」

『古川、朗報だ。もうパートナーを探し歩かなくて済むぞ』

 彼の目が開かれる。この学校の生徒として早二年。いまだに誰かと共に戦うなどしたことがなかったのだ。

「本当ですか? 俺はあまりいい評判ではないと聞いてますが」

『はっはっはっ。面白い冗談だ。いいもなにも最悪だよ、君は。冒険者狩り(同胞殺し)のイケヤ。有名人だ』

「……それで、誰なんです?」

『君に専任指導をお願いした子がいてね』

「正気ですか? なぜ承認したんです?」

『いや、君はお人好しだから頼めば断らないだろう? なんでも生き残り(サバイバル)技術について学びたいらしくてね。君以外に適任はいまい』

「はぁ……で、その子の《異能》は?」

『あぁ、これも承認した理由の一つなんだが。彼女は君と同じ、超集中の持ち主なんだよ』

「待ってください。彼女? その子は女子生徒なんですか?」

『頑張れよ、少年。年下は好きか? なかなかかわいい()だぞ』

 電話が切れる。専任指導は、新入生を二年、三年の生徒が付きっきりで指導するシステムの事で、学園長の承認を得なければならない。なぜなら、専任指導中は()()()()()()()()()()()()

「ハァ……」

彼の名前は古川池谷(ふるかわ いけや)支援科(サポーター)所属の二年生。支援科ながら戦場に立ち、規則を守らない冒険者やお尋ね者を狩る。その《異能》は駆逐科評定Cの戦闘に向かない《異能》、超集中。彼は今、自分についてこれるパートナーを探していた。

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