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『空色の木』  作者: 桜蟻
3/3

第3章 嘘の正しさ

『私は人間だ!!』

『ダー!ニンゲン!』


『それは違うよ』

僕は人間とは明らかに違う二人を見て、

即座に答えた


『そうか…』


『では…様々な話がしたいが

時間は有限だ 話すのは一つにしよう』


『ヒトツニシヨウ!!』コレクトがミステイクの会話を繰り返すように答える


『ゴホッゴホッ・・・ゴッ本!!!』

ミステイクが咳ばらいをし始め、

そう言った途端に少し煙を立てて、本が現れる


『では…この話でいこうか』

ミステイクが本に手をかざすとパラパラと本がめくれ、

ゆっくりとミステイクは語り始めた


いつの間にかコレクトの声は

いや…

それどころか二人の姿さえも見えなくなり目の前には

語られる物語の情景が引き込まれるように見え始める


あるところにそれはそれは立派な医者がいたー。


小さい頃から医者を目指し

勉強し多くの人を救ったのさ


しかし彼の心の中には後悔の念しかなかった


僕は情景とともに進む頭のなかに流れるような声、言葉に問う

『どうして?たくさんの命を救ったのに?』


言葉は答えるようにして続く


救えた命と同時に救えない命も確かにあったからさ

だが、彼が悔いたのはそれだけではなかっただろうがね


彼の名はマルク小さい頃から医者を目指していた


決して裕福な家で育ったわけではなく

医療とは縁遠かったかもしれないね


お金持ちしか治療は受けられなかった


マルクには大好きなお婆ちゃんがいた

ベル婆と呼んでそれはもう懐いていた


そして彼のお婆ちゃん、ベル婆は病を抱えていた


マルクに母や父はおらず

小さい頃に感染病で亡くなってしまった


残されたマルクをベル婆は心底可愛がり

二人分の愛情を持って育てた


マルクは小さい頃から親がいない事実を知り

医者になりたいと思い始めた


しかし年老いた体に子供を一人かかえての労働には

無理があった


きっといつどこで倒れてもおかしくなかったんだよ


マルクはすぐに領主の家を尋ねた

「頼む!薬を分けてくれ!」

だが一方的に追い返されるのみでだった


マルクは病で伏せるベル婆に約束をする


「ベル婆!オレ!必ず立派な医者になるから!

そんでぜったい助ける!!」


そうしてマルクは医者の勉強に励んだ

もちろん本を買う金なんてない


マルクは働いてお金を稼ぎつつ

村から少し離れた、医者の勉学に励む学校の授業をよく外から盗み見て

そして聞いていた


彼は医学学校の先生に捕まるが

幸運にも、勉強への意欲を認められてこっそり中庭で教わることができた


一時は領主やその家族が来て

「父さん、この前玄関で叫んでいたやつじゃないか!

なんでこんなところにいるの?」

などと罵られ口論になりかけたが先生がうまく止めてくれた


もちろん何も、言い返すことも出来なかったマルクは悔しかったが

その悔しさはより一層、マルクを駆り立てた


常に成績のトップだったマルクは推薦でさらに遠い学校に行くことになった


その学校の面接の日だった

ベル婆は容態が悪化し亡くなった


先生たちの協力のおかげで点滴が打てる施設にいたものの

気休めに過ぎない


しかしベル婆は周りにマルクに伝えないようお願いした

「あの子は優しいから、きっと今伝えたら帰ってきてしまうから」

「私があの子の邪魔をしたくない… あの子は…」


帰ってきてからマルクは泣いた ひたすらに

涙が枯れるほどに 事実を知ったからだ


マルクにベル婆のことを伝えなかった周りが

正しかったのかどうかはわからない


しかしマルクは責めることはできずその感情を

天に向けるかの如く、空を仰ぐように泣いた


一番救いたかったはずの命を救えなかった


…その後もマルクは努力を惜しまず

立派な医者となった 医療が進んでない場所、

医者いない場所へ率先的に赴き、多くの命を救う


やがて彼の活動は国に認められ

その国のお偉いさん会うことになったのさ


断るわけにはいかず

多くの人の上で壇上に上がるマルク


そして握手を求められる

「ご苦労さん」握手をして抱擁をしたかと思うと

聞き覚えのある声でそう語られる


いや、本当は見たときからわかっていた


マルクの目の前にはあの時の領主の子供が立っていた


その後、マルクの功績について語られ始めたが

マルクの頭には入ってこなかった

「オレは、こんな!

こんな奴のために人を救っているのか!?」

「いや、違うこいつじゃない…救いを求めてる人のために…」

彼の心の中には疑念が生まれその想いを拭いきれなかったが

マルクは、そう思ってしまう自分の心にそうじゃないと、嘘を突きつけ続けた


マルク自身のスピーチも終わり、

会場が熱気に包まれる中、最後にまた握手をして

抱擁する「そうだ、オレは間違っていない」


しかし、

その心とは裏腹に、いや…考えとは裏腹にと言うべきだろうか


マルクは目の前の人物をメスで殺していた



マルクは救いたかったはずの命を救えず、

そして奪ってしまったのさ 

そしてベル婆の、周りから聞いた最後の言葉を思い出す


「あの子はきっと立派な医者になるから」


何が…立派な医者だ…涙が映す景色に、

血飛沫と、悲鳴が飛び交う中、彼は自害した


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