9 王都ぶらり旅
先程聖女としての決意を新たにしたが、その日の午後はいつもの通常の魔術訓練ではなかった。
「今日は木曜日です。街に社会見学に行きます」
木曜日だと何かあるのだろうか?ブリーフ友の会とか?
まあいい、初めて学園や城以外を見れるんだ。素直に喜ぼう。
「という訳でお願いします皆さん」
「御意」
クロームの合図でチームマリーダのメイド四天王が姿を現す。どこに隠れていたのか、全然気付かなかった。いつものメイド服ではなく町娘というか、年相応の私服姿である。
四天王は手をニギニギしながら近寄ると素早く聖衣を脱がせ白い学ランのような詰襟の上着とそれに合わせた白いスラックスのようなズボンを着用させる。
見た事があると思ったら騎士課程の学生が着ている練兵用の制服である。
魔術士課程には制服がないが騎士課程には体を動かすせいか制服がある。
青いラインが入っているのが男子用、赤いラインが女子用と一目でわかるようになっており、今回着せられたのは青いラインの男子用だ。
続いてカツラを外しメイクを落とす。そしてペシャンコになってしまった髪を水で濡らし櫛でとかす。
あっという間にピエールランドのセイ様の出来上がりである。
「聖女の姿では自由に動けませんからね。ツェーゲラ殿にもご協力頂きまして、バルバストル侯爵家の紋章入りの練兵服を用意してもらいました。もし迷子になったりしても公的な施設の職員にその胸の紋章を見せれば何とかなるそうです」
さすがに聖女の姿で街を歩く気など起こらない。
それほどにアーガルムの聖女崇拝は異常だ。街に出たらどうなるかわからない。
それにしても、ツェーゲラも了承済みの社会見学か。本当にどこに行くんだろう? ブリーフ友の会とか?
「ありがとうございましたメイドの皆さん。解散とします。6時にまたここ集合です。それまでショッピングなどお楽しみください」
解散? あ、それで四天王のやつらも私服なのか。彼女らも街へ繰り出すらしい。
「かれっしたー」
「お疲れ様でーす」
「お疲れサマー」
「おっつーおっつー」
お前ら軽すぎだろ。OLか、ってOLみたいなもんか。
「何食べ行くー?」
「ドルチェっしょ!ラ・ムスランやっと今年もガトーフレーズ始めたってー」
「あー、あそこ酸っぱい苺出てこないとガトーフレーズ作らないもんねー」
「春風通りの同人ショップ、中年騎士ものの新作入荷だって! チェックするしかないって!」
ワイワイと練習場を出ていく四天王。
一人ブレない奴がいるな。ってか、春風通りなんて爽やかな名前の通りでそんな店営業するんじゃない。同人って大体何の二次創作だ。かの喜劇も腐女子にかかればイジーアス×オベロンとかが成立すんのか。一言のセリフに突っ込ませ過ぎだろ。
ハァ、とため息をついて四天王退場を見送る。
見送った先、入口でこちらに手を振るチャラい男の姿がある。アロハシャツに短パンでお洒落なハットをかぶっている。
ピエールだった。
笑顔で大きく手を振った後、走って何処かへ行ってしまった。あんなに嬉しそうにしてどこに行くんだろう? ブリーフ友の会とか?
「クローム先生、これはどういう?」
「私達だって休みが欲しいんです」
「は?」
「午前中ずっと変な物を作らされて夕方まで聖女様の特訓。夜は兵士達の魔術指導もやっているんです! ピエール殿だって1日中ストーキングし続けて、午前の治癒魔術の授業の時なんてロッカーの中から見守っているんですよ! メイドの方々も宮殿の聖女エリアをたった5人、いえ、マリーダ殿はほぼいないので実質4人で広い聖女エリアの全ての仕事をやらされているんです! 聖女付きの仕事は大変なんです!」
変な物ってダンベルの事か。重さを合わせながら左右対称にする必要があるから物凄い面倒くさいらしいのだ。
ってかピエール、そんな所にいたのか。今度知らない素振りで水責めでもしてみようか。
「雇用主と話し合った結果、木曜の午後は街へ出て遊ぶという事になりました」
木曜午後が休みって歯医者か。
まあでも、そういう事なら遠慮なく羽目を外させてもらおう。
クロームが俺に革の財布を手渡す。黒い革の上品な長財布だった。
「レン様の軍資金です。ちなみに財布は私の手作りです。革細工が趣味でして、魔術は使わずに全て手作業にこだわった渾身の1品です」
革をなめしたって事? すごいなクローム。
マニュアル魔術で色んなものがポンポンと作れてしまうので、自分の手で何かを作りたいと始めたら意外にハマってしまったらしい。
質の良い革を開くと10枚ほどの札が入っている。
「どれくらいの金額なんでしょうか?」
この国の貨幣なんて見るのも初めてだからな。価値がわからない。
「そうですね。レン様が宮殿で着ている絹の部屋着、あれが10着ほど買えるかと」
はあ? ものすごい大金じゃないか? 10万円以上あるんじゃなかろうか。
「ちょっと多すぎませんか?」
「国からの支給もありますが、殆どはレン様が稼いだお金です。大量生産した桜の花がいい値で売れまして」
俺の魔術訓練で花を咲かせた桜が季節外れの為か高く売れるらしい。ちなみに今の季節は秋である。桜の花が恋しくなる頃合いか。
中でも俺が魔力を込めすぎて出来た、失敗作の散らない500年桜の枝がとんでもない値で売れるらしい。そりゃそうか、もはやアーティファクトの域に片足突っ込んでる代物だもんな。
「むしろ、売れた金額を考えたら少ないほどです。なので誰にも気兼ねする事なく使ってください。労働したらお金を貰う、当たり前の事です」
俺の魔力なんてどんだけでも湧いてくるから元手はゼロみたいなもんだからな、かなり割りのいい商売である。
「わかりました。じゃあ遠慮なく貰います」
「うんうん。子供が遠慮なんかしたらダメですよ。よし、では行きましょう」
クロームについて学園を出る。
霊峰デュラージュを背にした城を北にし、城の南に貴族たちの住居、さらにその南に学園、そして街並みが広がっていく。学園は王都ソルミナの中心部に位置し、学園を出るとすぐに繁華街だ。
クロームはずんずんと歩いていき、やがて繁華街の端の大きな施設にたどり着いた。
入口には馬と騎手の銅像が建てられている。って事は競馬場か?
「ではここ、競馬場前で解散となります」
え? 解散? どっか連れてってくれるのかと思っていたのに。
まさか、競馬やりたかっただけとか?
「先生、競馬って何曜日開催なんですか?」
問いには答えず、クロームは俺からそっと視線を逸らした。
「木曜開催なんでしょ?」
問い詰めるがクロームはだんまりだ。さらに俺は問い詰める。
「先生が競馬やりたかったから木曜の午後を休みにしたんでしょ?」
「だって競馬やりたいんだもん! いいじゃんそれぐらい!」
こいつ開き直りやがった……。
「はい解散解散! 未成年は競馬場入れないから解散です!レン様だっておっさんと観光するより一人で自由な方がいいでしょ?そうそう、私が引率するっていう条件で休み貰ったんでちゃんと口裏合わすのと、くれぐれも揉め事とか起こさないでくださいよ! 夕方6時に実習場に集合ですんで!」
軽くキレながら競馬場に入って行くクローム。
くっ、有り金全部やられてしまえばいい。
クロームが競馬か、確かに耳に赤鉛筆とか超似合いそうだけど。
俺も競馬に興味がない訳ではないがアーガルムでは18歳で成人である。未成年者入場禁止ならしょうがない。
さて、どうしようか。まさか放り出されるとは思ってなかったな。
自由に観光出来るようになったと前向きに考えよう。
適当に歩いて、気になった店があったら入ろう。なーに、金ならある。多少無駄遣いしてもいいだろう。
よし、テンション上がってきたぞ。異世界観光、最高じゃないか。
正直召喚されてから今日まで異世界に来た実感ないからな。
何せ宮殿と学園と城、それに初日の光の洞窟しか行ってないのだ。
異世界要素というと喋る小動物と魔法ぐらいである。
魔術は毎日使っているが対象にしているのが桜だし、異世界っぽさを薄めている。
桜をはじめ、初代聖女様が色々と広めたのか、結構地球っぽい、というか日本ぽいものも多い。
たとえば風呂だ。聖女だから部屋に浴場のような風呂がついているのかと思ったが、どうやら大きくはないが各家庭に普通に浴槽があり、湯船に浸かる文化が根付いているようだ。
ヨーロッパに行った事はないが、アーガルムは地球のヨーロッパの国に少し日本の文化が混じった感じに見える。
それなのにアジア人種が一人もいないので違和感すら感じるのだ。ほとんどがヨーロッパ系白人である。
異世界といえばエルフとか獣人という人種を想像するが、それぞれ国を持っているそうでアーガルムには殆どいないらしい。
風の精霊の居場所へ向かう時にエルフの国が、土の精霊の居場所には獣人の国が近くにあるらしいのでその時を楽しみにしよう。
競馬場の前から学園の方に適当に歩き出す。
石畳でできた道にベージュ色の土の感じのする壁のお店。通りを歩くヨーロピアン白人達。主婦だろうか、抱えたバスケットからはバケットがはみ出ている。
うん、ヨーロッパだな、というかフランスだ。異世界要素は今のところゼロだ。
よし、テンション上がってきたぞ。フランス観光、最高じゃないか。
今まで外国に行った事ないからな。
何せ地元からほとんど出た事ないのだ。
やったー! フランスに来たどー!
むなしい。
しかも日本語通じるからな、フランスより外国っぽさもないわな。いわばフランス村である。
まあ、ずっと沈んでいても何にもならない。
誰かに名所や名物でも聞いてみよう。
腹も減ってるしそこのパン屋で本場のクロワッサンでも買って店員に色々聞いてみようか。
―***―
普通のパン屋だな。普通の、というのは地球にあってもおかしくないという意味だ。さすがにあんパンやカレーパンはなかったがチーズやソーセージが入ったものやドーナツまであった。
やはりこの国の食はすごいな。日本人の俺が不満に思わないのだからすごいだろう。
イートインコーナーがあったのでクロワッサンと紅茶を頼み店員さん(巨乳)に色々教えて貰った。
巨乳(店員さん)が言うには、ソルミナは食の都と呼ばれており、南の大陸でも一番のグルメタウンらしい。
豆を潰して衣をつけて揚げた「アルベニエ」という物や、毎年新しい物が登場する度にどれもが大流行するという最新スイーツが観光客には人気らしい。
あとそば粉の生地を伸ばし焼いてフルーツなどをのせて巻いたアムル焼きというものがある。ガレットのようなものかな。
アルベニエとスイーツの有名なお店をそれぞれ教えて貰った。後で行ってみよう。
続けて巨乳に名所も聞いた。
アムル神殿跡。
初代聖女様が召喚されたというアムル神殿の跡地。今も召喚に使われた魔法陣と、初代様が使った結界魔術の結界が壊れることなく残っているという。
アムル大聖堂。
平和が訪れた後、聖女を称え建てられたという豪華絢爛な大聖堂。もはや全体が美術品であると言われるほど。聖衣のレプリカも置いてある。
聖女ゆかりのものが多いようだ。アムルなんとか、と言えば聖女関連らしい。他にもアムルの泉とかアムル橋などがある。
どうしようかな、とりあえずクロワッサンで腹は満たされたし、巨乳で心も満たされてしまった。
少しの間思案する。決してもうちょっとだけ巨乳を眺めていたいから、という訳ではない。
俺ぐらいになるとVR映像での脳内再生が余裕だからな。オプションで肩掛け鞄の着用や水鉄砲の使用も可能だ。
アムル神殿跡に行ってみようか。道の途中にアルベニエの店もあるらしいし、今も残る結界に触ったりも出来るそうだ、現聖女として見に行っておこう。
―***―
という訳でやって来ましたアムル神殿跡。
道中何度か道に迷ったが人に聞いて辿り着けた。
この街の人々は学園生にはとても親切だ。
俺の服を見ると、「頑張ってね!」と声をかけてくれたり、「これ食べていきな」と買おうと思っていたアルベニエをタダで貰ってしまった。
こういう雰囲気の街はいいな。街全体で若者を応援してくれている。若者もやる気になるってもんだ。
アルベニエはコロッケのような物だった。美味いには美味いのだが白米が欲しくなるな。未だ米にはお目にかかっていないが、多分あると思うんだよな。今度リクエストしてみようかな。
アムル神殿跡についても道を訪ねたら色々と教えてくれた。
500年前の聖女召喚の儀の時。
召喚された聖女の魔力を感じ取り、恐れた魔族は直ぐに刺客を送り込んだらしい。
アムル神殿が崩壊するほどの攻撃を受けたそうだが初代様が結界魔術を使用、そのおかげで一切の攻撃が届かず、魔族の撃退に成功した。
その時の結界が500年経った現在も残っており、魔法陣の中に人が入るのを拒んでいる。
魔法陣は失われた技術だ。魔法陣の様に、長い平和の中で失われてしまった技術は少なくない。アーガルムとしては魔法陣を研究したいらしいが、結界が名所となり観光資源となっている事も事実。結界を破る事にそれほど躍起にはなっていないようだ。
教えられた内容を思い出しながら跡地を見てみる。
屋根や柱などは無く、基礎と床だけになってしまった神殿。
床には直径8メートルぐらいの大きな円形の魔法陣が描かれており、それを守るように球状の薄い膜のような物がうっすらと虹色の輝きを纏っている。
本当にうっすらと、淡い淡い虹の光。虹の光のドームだ。
これはすごいな。神秘的で綺麗だ。見に来て良かったな。
一番有名な観光名所だけあって人で溢れかえっている。みんな虹のドームによりかかったり、小さい子供は父親にドームの上に乗せて貰ったりしてはしゃいでいる。
バルコニーからの祝福の光は国の演出だったが、これは初代様の結界に間違いないだろうな。
なんというか、わかるのだ。同じ聖女として、感じるのだ。
この魔力は俺と出所が一緒だ。俺の仮説だが、恐らく地球のエネルギーだ。
俺の魔力は俺の体から出ているわけではない。
通常、セラヴィスの生物は体内に魔力を内包しているらしい。量については個体差があるが、使用した分は時間経過や睡眠などで回復するらしい。
だが俺は違う。
魔術を使うと俺ではない何処かからエネルギーが湧いて出るのである。
通常は溢れてくるものではない、湧いてくるものではない。内に溜めているものを切り崩すような感覚らしいのだ。
俺は自分の中に魔力を感じない。ないのだから回復するという事もない。
突拍子もない発想だが、地球のエネルギーと直結してるのではないかと思っている。言い方を変えると、俺の魔力タンクは地球なのだ。
さらに話が飛躍するが、ガイア理論、というものを知っているだろうか?
地球を一つの生命体として考えるものである。
仮に星を一つの生命体に例えるとすると、俺たち人間や植物、石なんかも星の細胞の一つということだ。
だとすると人間は地球にとっていい働きをする細胞なのか、それとも害をなす細胞なのか、というような論議に発展しそうになるがそれは置いておいて。
ヒトの細胞は37兆個と言われているが、星をヒトの様に考えてみると、その星に住む人間一人は星の細胞の37兆分の1と考えられる事になる。
アンジェリークやオルガは相当魔力が多いようだが、それでもセラヴィスの37兆分の1でしかない。
俺は37兆分の37兆なのだ。つまり1ガイアである。
セラヴィスとガイアの力を等しいとするなら、アンジェリークの37兆倍を超える魔力量を持っている事になる。
俺の魔力に底がない、とはクロームの評だが、地球まるごとなのだ。底がないように見えたのだろう。
とんでもない仮説ではあるが、以上が俺の魔力がほぼ無限である理由ではないかと考えている。
「……イ様」
しかし、かなり大掛かりな魔方陣だな。これぐらいの魔方陣を使わなければ初代様は召喚出来なかったという事だ。
「……イ様……あの……」
あれ?俺が召喚された時の広間に魔法陣なんてなかったよな。ここの魔法陣は結界のおかげで使えないし。って事は完全に手動でこれだけの魔方陣が必要な魔術を構築したっていうのか、うちのクローム先生は!
すげーなあの人。そこまでして召喚した聖女をほっぽりだしちゃうんだもんな。すげーわ。
「セイ様!」
耳元で呼ばれた声に思考の海に潜った意識を取り戻す。こんな所で自分が呼ばれるなんて思ってなかったから気付かなかった。
声の主はいつもの魔術師ローブではなく、貴族のお嬢様らしい赤色のドレスにショールを肩にかけたアンジェリークだった。
貴族の、といっても針金の入った大きいスカートのようなものではなく動きやすそうなすっきりとしたドレスだ。
うん、すごくいいな。特別着飾っているわけではないと思うが、今まで仕事着しか見たことなかったから物凄くかわいく見える。
「こんにちはアンジェリークさん。すいません、自分が呼ばれていると思わなくて」
「こんにちはセイ様。お一人でございますか?護衛の方などは?」
「はぐれた、と言いますか、放り出されたと言いますか」
聖女そっちのけで競馬やってますよ。
「はぐれた? 大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。王都は治安も良さそうですし、ここに来るのも少し迷いましたが人に道を訪ねたら親切に教えてくれましたしね。折角自由になったので王都観光を満喫しようかと。アンジェリークさんは?」
「私も観光というか、王都に出てきて半年になりますがアムル神殿跡や大聖堂に来た事がなくて。新しい聖女様も召喚された事ですし、前聖女様ゆかりの地を一度見ておこうと思いまして」
そうか、俺が召喚されたからここにこんなに人が多いのか。警備の兵士も何人かいるし、聖女ブーム到来って感じか。
「ああ、確か聖女様と机を並べて勉強されているのでしたね」
「はい。美しさは言うまでもありませんが、大変博識な方でお話しをさせて頂くと驚く事ばかりです」
そういえばセイとレンちゃんは兄弟疑惑があったな。あまり聖女の話をしない方がいいか。俺もボロを出しそうだしな。
「へえ、そうなんですね。そうそう、結界は触りましたか?」
「いえ、まだです。セイ様は?」
「俺もまだです。折角なんで触っておきましょうか」
結界に手が届く距離まで近づく。アンジェが手を伸ばして、その細い指が虹色の膜に触れる。
「わあ、すごく硬いです」
「え? 聞こえませんでした。もう一度言ってもらえますか?」
「すごく硬いです」
録音した。硬いを大きいにしたバージョンも聞きたいがやめておこう。
「硬いんですか。やっぱり壁があるみたいな感じなのかな」
俺も手を伸ばし結界に触れた。感触を楽しむ前に俺の意思とは関係なく、手が結界に吸い付く。
これ吸い付いたというか、吸いとられている。何だ?ヤバい、魔力を吸いとられている!
ぐんぐんと魔力を吸い上げ、その薄く、淡かった虹色が、段々と濃く、はっきりとした虹色に輝き始める。
「セイ様! 手をお離しください!」
アンジェが声を上げ、周囲も騒然となった。俺とアンジェ以外は全員結界から距離をとる。
手を離そうとするがまるでくっついてしまったように離す事が出来ない。
アンジェが俺の腕を掴んで引っ張るがびくともしない。
眩しいぐらいに輝きを増し、ピシッ、とヒビが入ったように見えた、次の瞬間。
パリィィィィン!!
思わず耳を塞ぎたくなるような甲高い音が響き、結界は消失した。
割れた?結界が?
膜があったその先に手を伸ばす。すると遮られる事なく今まで止まっていた先にするりと手が入った。
「セイ様! お怪我はございませんか?!」
「俺は大丈夫です。アンジェリークさんは?」
「私もなんともございません。ですが、まさか、結界が…。それに、さっきのはアルカンシェル……?」
アンジェも怪我はないようだ。
結界が割れた直後は静まり返った周囲もやがて騒々しくなる。
「何だっ?何が起こったんだ?」
「あの騎士候補生が触ったら光りだして結界が無くなったぞ!」
「応援を呼べ! 魔法陣に人を近付けさせるな、魔法陣の保全が最優先だ! おい、そこの候補生! 聞きたい事がある。そこを動くな!」
やっちまったな。クロームが怒られるのは構わないが、自由な時間がなくなるのは嫌だ。それに、折角アンジェリークと会えたっていうのに。
「ど、どうしましょうセイ様」
わざとやった事ではないし、ジークなんかはまた伝説が増えたと喜ぶだろうが、今時間をとられるのは困る。
「逃げましょうか」
「えっ? に、逃げ?」
うろたえるアンジェに俺は微笑んで左手を差し出す。
「ほら、早く」
「は、はいっ!」
戸惑いながらも俺の手をとるアンジェ。その手を引き、俺とアンジェはその場から走り去った。
脇毛、変態をキーワードに追加したらブクマが一件減ったw
ついでにあらすじも変更しましたわ おほほ。