11 母と弟と異邦人
髪をファサァッとかきあげ、ペロッと舌で唇を舐めた後、ドンッ! と壁に手をつくデボラ。壁際に追い込まれたジルベルトは両手を胸の前で組み、その目をうるうると潤ませている。
デボラは壁につけたまま逆の手でジルベルトの顎をくいっと上げると、耳元に口を近づけて囁いた。
「キザな俺はアンジェリーク専用ですよ」
ジルベルトは手で口をおさえると肩を震わせ、やがて爆笑しだした。
「アーハッハッハ! アンジェリーク専用ですよ! アンジェリーク専用ですよ! アハハハハ!」
確かにアンジェは笑ってたけどそこまで爆笑してねーよ。
壁ドンもやってねーし唇ペロッとか何なんだよ。
ニコラを助けた木曜の夜、メイド四天王にアンジェとのデートがどうだったか尋問された。
俺もなりゆきだったが初めての女の子とのデートが嬉しくて、つい色々な事を四天王に話してしまった。
それからずっと、日曜の朝になっても飽きずにこうやって俺をからかい続けている。
大体壁ドンなんか俺がやってもサマにならねーって。
「デボラは背が高いから壁ドンやっても絵になるけどさ、俺の背だとみっともないだけだぞ」
デボラは175ぐらいあるからな。かっこいいんだよ。
アンジェよりも俺の方が少しだけ背が高いが、壁ドンは見下ろす感じじゃないとおかしいだろう。
「あら、同じ目線で同じ景色を見れますわ」
「うるせーよバカ」
「むふー、レン様! メイク中は動かないでくださいまし!」
「ああ、ごめんよティファニー」
あれ? 俺が悪いの?
奴らも俺が動けないメイク中とかを狙ってからかってくるから質が悪い。
なんというか、宮殿は今日も平和だった。
今日は日曜日だ。日本の様にアーガルムでも学園や役所などの公的な機関は休日である。しかし聖女に休みはないのだ。
午前は礼拝、午後は孤児院や老人介護施設などの慰問に行かなければならないのである。
まあ聖女だからな、しょうがない。木曜の午後の休みが正式にジークにも認められたようだし、週1休み、しかも午後だけなんてブラックな気もするが毎日ウマイ飯を食ってデカイ風呂に入らせてもらってるからな、頑張って働こうじゃないか。
セーラー服にツインテール、ニーソックスのいつもの聖女スタイルに変身し、ジークの待つ食堂へと移動する。
朝食は毎日ジークと取っている。この時間に一日の予定などを確認する事が多い。
食堂へ入ると既にジークが席についていた。
「おはようレン」
「おっはージーク、マリーダさん」
「おはようございますレン様」
給仕はアニーとマリーダだ。珍しいな、マリーダは宮殿の侍女長だから、聖女付きとは言ってもあまり俺の世話に付きっきりという訳にもいかないのだ。とりわけ朝は忙しいらしいので朝食の給仕は大体四天王に任せる事が多い。
「マリーダさんが朝からなんて珍しいですね」
マリーダは38歳。四天王と違って俺にも丁寧な態度で接してくれるし、親でもおかしくない年齢だからな、俺もマリーダには敬語である。
「申し訳ございません。聖女様付きとして毎日こうであるべきとは思っているのですが」
このへりくだった態度。
侍女長がこうなのに何故四天王はああなんだろうか?
「いや、そういうつもりで言ったんじゃないですよ。忙しそうで大変だろうから無理しないでくださいって言いたかったんです」
「温かいお言葉ありがとうございます。ですがご心配には及びません。ようやく副侍女長への引き継ぎが落ち着いてきましたので、これからは以前よりも多くレン様のお側でお仕えできるかと思います」
「え? 侍女長こっちに来る時間増えるんですか?」
口をへの字にして明らかに嫌そうな表情のアニー。さっきのデボラとジルベルトの寸劇をマリーダが見たら卒倒するだろうな。
「アニー、主人の食事の最中です。私語は慎みなさい。レン様、殿下、失礼しました。アニーには再度教育しておきますのでお許しください」
これだからな。
俺としては別に構わないのだが、もしここで「話すのぐらいはいいよ」なんて言ってしまったらマリーダも困るだろう。彼女の部下なのだから彼女のやり方に任せるべきだな。マリーダがいない所ではきっと羽目を外すだろうし。
「失礼しました」
アニーも深く頭を下げ謝罪する。四天王もマリーダには頭が上がらないのだ。
「レン、今日の予定なんだが」
午前中はアムル大聖堂にて礼拝、午後は孤児院と老人介護施設を何ヵ所か慰問する予定らしい。
おいおい、大聖堂で礼拝なんて聞いてないぞ。
それって何千人規模なの?
というかそれって俺が拝まれる側じゃないの?
気楽な観光気分なら大歓迎だが、これは疲れそうだなあ。
午後の慰問に関しては問題なさそうだ。ガキンチョやじーちゃんばーちゃんの相手なら慣れてるからな。子供と遊ぶ事になるかもしれないがさすがに聖女相手にスキンシップ的な遊びはしないだろうし、聖女スマイルを振り撒いていればなんとかなるだろう。
スケジュールの確認の後は俺が結界を壊してしまったアムル神殿跡の魔法陣についてと、学園の授業に関する話。
まず魔法陣だが、筆頭魔術師のクロームをリーダーにした調査団を結成する予定らしい。只今メンバー選定中だそうだ。クロームはこれ以上仕事が増えるのかと愚痴っていたそうだが、クロームは日曜休みだからな、俺やピエールよりも休みが多いので仕事が増えた所で知った事ではない。
それに神殿跡の魔法陣は聖女召喚の儀の術式である。術式を理解しているクロームでなければ魔法陣の解読は難しいだろう。
学園の授業については、午前中の治癒魔術の授業についてだ。イングリド先生から今後の授業の事で提案、というか相談があるらしい。明日学園で詳しい話があるらしいので学園に行けばわかるだろう。
そういえばジークにフリオニールの事を聞くのを忘れていたな。礼拝まではまだ時間があるようだし聞いておこうか。
「ジーク、一個質問なんだけどさ」
「ああ、何だ?」
「騎士課程のフリオニールについてなんだけど」
ガシャーン! と皿の割れる音。音の方を見るとマリーダが落とした皿の破片で手を切り、指から血を流している。マリーダがミスするなんてどうしたんだろうか。
「レン様、フリオニールが何か粗相でもしたのでしょうか?」
ひどく狼狽した様子で俺に尋ねる。何だ? フリオニールとマリーダって接点あるのか?
おっと、とりあえず治癒魔術だ。
「落ち着いてマリーダさん。ほら、指見せてください。アニー、皿の片付けを頼むよ」
魔力を集め治癒魔術を構築。中級程度なら一瞬で終わる。目標は特級を遠隔発動で1秒切る事だからな。もうニコラの時みたいな失態はごめんだ。
「ハイヒーリング」
パッと一瞬だけ光り、マリーダの指の傷が治った。いずれ魔術名もなしで発動できなくちゃな。まだまだ特級1秒への道のりは遠い。
「おおっ! 見事な無詠唱魔術だな」
ジークが感嘆の声をあげるが、無詠唱魔術とは詠唱魔術の詠唱を省略する技術の事で、マニュアル魔術とは別のものである。
しかしマニュアル魔術も失われた技術の一つであり、現在の世間の認知度は低い。魔術が苦手だというジークが知らないのも無理はない。
アンジェは古代魔法と呼んでいたし知っているっぽかったな。古代っていうぐらいだから今のセラヴィスで使える人間は少ないだろうし、聖女の時はともかく、セイの時は人前で使うのは緊急時だけにしておいた方がいいかもしれない。もっとも出し渋ってニコラの時みたいになってはいけない、騒ぎになったらその時考えればいいか。
「た、大変失礼いたしました。侍女の私が聖女様の手を煩わせるなんて……。直ぐに片付けます」
マリーダが振り返ると割れた皿は既にアニーが片付けた後だった。アニーは深くおじぎをすると退室の意を告げた。
「レン様、殿下、侍女長。私は退室致します」
扉の前でもう一度おじぎをするとアニーは食堂を出ていった。
え?何でアニーが出ていくの?
「ふむ。気を利かせてくれたようだなあの侍女は。マリーダ、いい部下じゃないか」
ああ、そういう事か。フリオニールについては侯爵令嬢のオルガでさえも話す事が出来ないのだ。侍女が聞いていい話ではないという事だ。あれ? マリーダはいいのか?
「もったいないお言葉でございます殿下。私も失礼いたします」
続いて退室しようとするマリーダをジークは引き留める。
「まあ待てマリーダ。そなたも一緒で良い。足りない部分は補足してくれ。レンも構わんだろう?」
「うん。よくわかんないけどいいよ、話せるのなら」
「わかりました。殿下の仰せの通りに」
「うむ。何故レンがフリオニールの事を知っているか聞きたいが、とりあえずこちらから一通り話そうか」
ジークの口から語られたのは想定外の事実だった。
「フリオニールは私の双子の兄だ。そして、私の乳母でもあったマリーダの息子でもある」
な、なんだってー?!
ごめん、ふざけた訳じゃないんだ。普通に驚いてしまった。えーと、どういう事だってばよ。
「レン、私が民に何と呼ばれているか知っているか?」
「ううん、ジークの話は聞いた事ないな」
「空っぽ王子だ。王の器とも呼ばれているがあれは中身が無いという皮肉だ」
「殿下、そんな民の噂話を真に受けてはなりません」
「良いのだマリーダ。実際その通りだ。私はただの器、今ではそれでいいと思っている」
18年前、王妃の妊娠でアーガルムは沸いた。待望の第一子である。しかし双子だと判明し王室は揺れた。
王室の言い伝えで双子は災厄の前兆であるとされ、過去双子の王子が産まれた際は、国王の突然の変死事件に始まり良くない事が次々と起こり、果てに双子の王子の王位を巡る争いで事実アーガルムは滅亡寸前の危機に瀕した。
よって、双子が産まれたら片方を処分するのが通例になっており、今回もその通りになるはずであった。
そしてフリオニールとジークハルトは無事に産まれた。二卵性の双子だったようだ。フリオニールは王妃に、ジークハルトは国王に似ていたという。
国王によく似ており同じ髪と目の色をしているという事でジークハルトが王子として選ばれ、フリオニールは秘密裏に処分されるはずだった。
しかし王妃はこれを拒否、食事なども取らずにフリオニールを抱いたまま離さなかった。
このままでは王妃も一緒に死んでしまうのではないかと危惧した国王は、フリオニールを平民へ落とし王室とは無関係であるとし、王子の乳母であったマリーダに預けた。
マリーダはこの2週間前に子供を死産してしまい、乳が出る為に乳母として選ばれていた。我が子の代わりにフリオニールを育てる事に運命を感じたのだという。
マリーダの夫は兵士であったがこの時殉職してしまっており家もなく、宮殿内に置いておく訳にもいかない。そこで、国王からの信頼も厚かったジェリコー侯爵家にマリーダは侍女として子連れで働く事になった。あくまでフリオニールはマリーダの子とし、事実は国王やジェリコー侯爵など極一部の人間以外には秘匿された。
こうしてジークハルトは王子として、フリオニールは侯爵家に仕える侍女の息子として育てられる事になったのである。
そのまま何事もなく、それぞれ王子として、侍女の息子としてすくすくと成長していたがジークハルトの体にやがて異常が見つかる。
ジークハルトには魔力が一切無かった。
セラヴィスの生物は植物でさえその体内に魔力を内包している。
しかしジークハルトにはほんの少しも無かったのだ。
とは言っても、魔術を使えない人間などたくさんいるし、国王になるのに魔術が必要という訳でもない。この時はそこまで問題視されていなかった。
事件が起きたのは彼らが七歳の時。ジェリコー侯爵の孫娘が誘拐された。オルガの事である。
これを助け出したのがフリオニールだ。
侯爵家の屋敷にはフリオニールは入った事がなく、使用人の為に建てられた住居で生活していた為オルガと面識はなかったそうだが、フリオニールはオルガの監禁場所をマリーダに伝えたという。
マリーダは子供の言うことだと最初これを信じず、相手にしなかった。
信じてくれない侯爵家の人達に業を煮やしたフリオニールは、子供ながら街の人々に協力を求め、兵士団を動かして見事オルガを助け出してしまう。
この活躍によりフリオニールは神童とされ大変な人気となった。
そして人々の間にこんな噂が流れ始める。
フリオニールはジークハルト王子の双子の兄弟であり、平民として生きる事を課せられた可哀想な王子であると。
ジークハルト王子の魔力を胎内で吸い上げて多大な魔力を内に秘めており、神の力を使えるのだと。
ジークハルト王子はフリオニールに魔力を全て持っていかれて空っぽなのだと。
王室は動揺した。魔力うんぬんに関しては想像の域を出ないが、双子だというのは紛れもない事実である。直ちに噂の出所を探し出した。事実を知るものは数えるほどしかいない、すぐに見つかった。
噂を流したのは出産以前から王妃の体を診ている治癒術士だった。
治癒術士はすぐさま処刑されることになったが、噂は既に広まってしまっている。
このままではジークハルトではなくフリオニールを王位継承者として担ぎ上げようとする貴族も出るかもしれない。
そこで更に噂を流す事にした。
フリオニールは神の子などではなく、悪魔にとり憑かれた呪われた子であると。呪いの力でジークハルト王子の魔力を吸い上げてしまった忌み子であると。
作為的に流された噂はあっという間に広まり、それからフリオニールは呪いの子と呼ばれるようになってしまったそうだ。
その後もジェリコー侯爵家で暮らしていたが、15歳の時騎士養成所へ入所。息子が寮へ入った為、マリーダは宮殿へと職場を変え、現在に至る。
なるほど、これはアンジェリークやオルガが口に出来る様な内容ではないな。
あと俺的にはジークが同い年だったということに軽くショックを受けた。こいつ落ち着いてるし貫禄があるんだもん、二十歳ぐらいだと思ってたよ。なんていうか、王の風格っていうの?ジークから感じるんだよ。
17歳でこれだけ威厳オーラが出てるんだから悪い意味でなくやっぱり王の器なんだろう。
ジークも言っていたが、空っぽでもいいと思う。中身は探せばいいんだから。逆に器がしっかりしてなくちゃ中身がどんだけすごくても溢れたり、穴が空いたり、壊れたりしちゃうもんな。
幸いツェーゲラとかピエールとかさ、既に素晴らしい中身になってくれそうな人達がいる。ただの器、そんな王様も俺は素敵だと思う。
話を戻そう。
ふむ、一通り聞いた分にはジークやフリオニールは少しも悪くないな。
「つまり悪いの国王だろ? 帰ってきたらぶん殴っていい?」
国を守る為か知らないが子供を犠牲にしていい訳がない。
「後で治癒魔術で治療してくれるなら何発殴ってくれてもいいがな」
ジークは苦笑しながら、冗談だろうが条件付きで了承した。
でも俺が殴っても意味ないか。本当に国王を殴りたいのはジークやフリオニールの方だろう。
「で、レンは何故フリオニールの事を知っているんだ?」
俺は学園でフリオニールがイジメられている事を話す。
マリーダは驚き、ジークは不快そうに腕を組んだ。
「まさか、あの子そんな事全く言ってなかったのですが……」
「そりゃ親には言えないよ。心配かけたくないもん。一人で抱えて一人で我慢するもんだよ」
「いつも元気で大丈夫だと、学園が楽しいと会う度に言っていたのに。無理をさせていたのですね。自立させようと寮暮らしをさせていますが、やはり一緒に暮らした方が良かったかもしれません」
入寮はフリオニールが自ら希望したそうだ。マリーダは以前から宮殿で働いて欲しいと誘いを受けていたそうだが、フリオニールの入寮にあわせ宮殿に住み込みで働いくようになったらしい。ジェリコー侯爵家にこれ以上迷惑をかけたくないという気持ちもあったという。
「マリーダが望むなら家をこちらで探してもいいし、仕事だって通いにしても大丈夫なんだがな」
「ありがとうございます殿下。一度フリオニールと話し合ってみます。とりあえず今晩、私はいつでもフリオニールの味方だと伝えようと思います」
毎週日曜は夕食をフリオニールと一緒に食べるらしい。ちょっとずつでもフリオニールがマリーダに辛い気持ちを話してくれればいいんだけどな。
「私もフリオニールの事はいつも気にしているんだ。こんな事はここでしか言えないが、血を分けたただ一人の兄弟だからな。だからマリーダ、何でも言ってくれ」
「はい。殿下にはいつもよくして頂いて、感謝してもしきれません」
この二人には強い信頼関係が見てとれるな。ジークがマリーダの事を信頼しているのは乳母だったというのに加え、フリオニールの事もあるんだろう。
「そういやフリオニールの力って何なの? マリーダさん知ってますか?」
噂の通りにジークの魔力を吸いとってしまったのかはわからないが、何か特殊な力があるというのは本当だろう。
「申し訳ございませんが本人に聞いても教えてくれませんで、どのような力なのか私にもわかりません」
呪いの力なんかじゃなくて役に立つ力だと思うんだよ。
わかるはずのないオルガの監禁場所がわかるのだったら、エロ本の落ちてる場所とかもわかるのではないだろうか?
頼んだら探してもらえないだろうか。
そういえば異世界ではどこにエロ本が落ちているのだろう?
日本では何故か竹やぶとか高架下とかに落ちている事が多かった。
朝露に濡れてページがくっついてしまったエロ本を持ち帰り、ドライヤーで乾かしたりピンセットで剥がしたり。何故我々はあんなに必死になっていたのだろうか。
今ではスマホで 巨乳 ショートカット で検索するだけで事足りるというのに。
やはり紙文化には俺達を夢中にする何かがあるのだ。袋とじとか考えた奴天才だよな。ハサミで綺麗に切る奴とか手で適当に破っちゃう奴とか意外と性格が出るんだよな。ちなみに俺は逸る気持ちが抑えられずに手で破ってよく失敗してしまうタイプだ。
だって早く見たいんだもん! 隙間からじゃ見えないんだもん!
そんな素晴らしい紙媒体……じゃなかった、フリオニールの力は素晴らしいんだって世間に広める事が出来れば、ってそれじゃジークよりも評価が上がってしまうからダメなのか。フリオニールにその気はなくても、出世の為に何でもやるって人間はどこにでもいるからな。どっかの貴族がフリオニールを担いで王位争いになっても困るんだよな。
ん? そうだ、フリオニールを俺の下に置けばいいんじゃないか?
つまり、俺の近衛騎士にしてしまえばいいのだ。
聖女なんていう超VIPなら近衛騎士が二人以上いてもおかしくない。むしろ二人じゃ少ないぐらいだろう。
栄誉ある職だろうから馬鹿にする奴なんていなくなるだろうし、聖女の騎士を取り込もうなんて貴族もいないだろう。
ジークに近衛騎士にする案を提案してみる。
「確かにフリオニールの悪い噂を払拭出来て、貴族からも守る事が出来るとは思うが、ただの騎士候補生を聖女様の近衛騎士に?無理があるな」
首席とかならまだしも、特に成績が目立つ訳でもない候補生をいきなり聖女の近衛騎士に、っていうのはさすがにな。それこそフリオニールが贔屓されてるんじゃないかと妬まれるだけだろう。
要するに、旅に出るまでの半年の間にフリオニールに何かしらの功績をあげさせて、その功績を称え聖女の近衛騎士に任命すればいいと。
何その無理ゲー。
いや、あながち無理でもないのか?フリオニールには特殊な力があるのだ。機会さえあればなんとかなるんじゃないか?
ただ、その力がどんなもんかわからない事にはなぁ。
「ん~、今更マリーダさんに力の事を話すとは思えないし、俺が直接聞いてみるかな。といっても学園じゃ聞く時間ないか」
「そういえば、フリオニールは毎週日曜日、ボランティアで老人介護施設を手伝っているそうです。たしか陽だまりの家という施設だったかと」
慰問の時なら適当に時間を作れそうだし、二人きりにもなれるかもしれない。
まずは信頼度アップだ。俺を信用してもらって心を開いてくれれば力の事だって話してくれるだろう。
「よし、そこへ行こう! ジーク、午後は陽だまりの家を慰問するように出来る?」
「ああ、それなら難しい事ではない。手配しておく」
朝のミーティングは慰問先の決定をもって終了し、俺とジークは礼拝に向かうのだった。
筆者の兄は袋とじをカッコつけてペーパーナイフでサクッと切ろうとして失敗して首なしグラビアを大量生産するタイプでした。




