異世界転生・チート・ハーレム・三大テンプレを盛り込んだ上でその全てを如何に外してみるかのテスト
俺は学生時代のイジメが原因で二十年以上引きこもって居たのだが、この度目出度く転生する事になった。
ネトゲ中毒者だった俺は自分の体重に椅子が耐えられなくなりそのまま転倒、頭を打った挙句気を失った所を熱中症のコンボで死亡、そしてテンプレ的に神様に出会い、俺の能力をオーバーフローさせて貰うと自分がゲームにハマったバイブルとも言えるゲームの世界に転生する。
コレだけで俺が主人公且つ英雄になれるだけの土壌が揃ってるのに、限界突破した超絶チート性能の身体でしかもイケメン、冴えないピザデブで画面の向こう側から現実逃避してる連中とは違う勝ち組になった!!
喜びに打ち震えながら高笑いしていると、ゲーム開始直後のイベントが起こり、傷付いた子犬を抱えた女の子と出会った。
この子の名前はリーサ、生まれつき動物の言葉が分かる特異体質を持ち、今彼女が抱えている子犬を主人公が回復魔法を使って治療する事で接点を持つようになるヒロインの一人だ。
俺は内心で早速チートが振るえると歓喜しながら、笑顔で『どうしたの?』と主人公と同じセリフを言って近付く。
すると彼女は『この子が怪我をしてて……でも今薬はなくって……』と非常に狼狽えている、ゲーム通りの展開だ。
『なら俺が治してあげるよ、こう見えて魔法使いだからさ』と、俺はまた主人公と同じセリフを言うと、回復魔法を使って子犬の傷を治療する。
本来ならこの時点では主人公の腕の問題で応急処置程度にしか回復はせず、街に行ってからちゃんとした治療をするんだけど、今の俺にはチートパワーがある、こんな傷一瞬で治るさ。
そしてリーサは恩を忘れない子だからそっから徐々に関係を深めて……グフッ。
と、俺が妄想に浸りながらも回復魔法を使うと、淡い光が子犬を包み込む。
––––そして、その光の中にいる子犬は白目を剥いて泡を吹き出しながら痙攣し始め、十秒ほどで動かなくなった。
––––Why!? 何が起こったの!?
えっ? と疑問に思う間もなく、俺の口は『応急処置だけど、これで命の危険は無くなったよ、後はちゃんとした治療をすれば直ぐ元気になるよ』と、勝手に話始めた。
なんでじゃぁぁぁあ!! 何処が応急処置だよ!! 血泡吹いてんじゃねぇか!! 命の危険もクソも死んでるっつーの、つか今殺したてホヤホヤ!! 直ぐ元気って死んでるのに元気になるか!!
恐らく神様印のチートステータスの所為で回復魔法がオーバーフローしてダメージに変わったんだろう、回復魔法とは一体なんだったのか?
僕の内心とは裏腹にイベントは進むらしくリーサは『あ、ありがとうございます!! この子も少し元気になったみたいですし、この御恩は忘れません!!』とゲーム通りの事を言った。
お前の目は節穴なのか!? 血泡吹いた子犬が元気に見えるってどんな頭してんだよ!!
やべーよ、心なし子犬の目がコッチ向いてる気がして来たよ、違うんだ俺はお前を助けようとした言わば善意の人であって決して心優しい女の子の前で苦しませて殺してその反応見て楽しもうって歪んだ性癖は持ってねぇんだよ、寧ろ嬉々として君を病院に持ってくリーサの方が狂ってるから俺は悪くないって。
そんないい訳をしていると、イベントの進行によって急に街中へ視点が飛んだ、瞬間移動と言う事にしよう、うん。
既に病院から出た後で、リーサは血泡吹いた子犬に首輪を付けて『見て下さい、すっかり元気に走り回ってます』と笑顔で俺に言った。
だからお前には何が見えてんだよ!? 僕には包帯巻かれた死んだ子犬にしか見えねぇって!! 走り回るどころか死後硬直でガッチガチになってるだろ!? つか医者ァ!! 死んでるの分からねぇとか医者辞めちまえ!! どんな顔して包帯巻いたんだよ!?
『あ、もうこんな時間ですね、すみませんコレから予定があって……後日またお礼致します』とリーサは子犬の死体を引きずって行った。
これって、もしかして無理矢理ゲーム通りの進行にされるパターンですか?
恐る恐る俺は街の中心にいるあるNPCに話しかけてみる、このNPCは街やストーリーの進行度がどんな状況だったとしても『良い天気ですなぁ……』としか言わない老人としてこのゲームの名物NPCだ。
俺は一縷の望みをかけてこの爺さんに話しかけた、もしこの世界がちゃんと現実の世界だったならこのセリフ以外の言葉が出てくるはずだからと。
しかし結果は『良い天気ですなぁ……』としか言わなかった、思わず俺は爺さんの顔面に八つ当たりの拳を叩きつけ、渋々次のイベントの場所へ向かおうと踵を返した時だ。
––––後ろから、布が裂ける音が盛大に聞こえた。
唐突だが、このゲームには恋愛要素以外にも戦闘要素が盛り込まれている。
恋愛ゲーの癖に醍醐味の殆どを奪うほどのやり込みが出来るんだけど、このゲームの経験値は敵を倒す以外にも攻撃を与えたり、或いは攻撃を受ける事でも手に入る。
攻撃を受けた側と与えた側のレベルの差が開けば開くほどその量は上昇し、レベルアップもちゃんと行われる。
そして、このゲームのNPCにも一応はレベルが存在し、データ解析の結果主人公の半分の経験値でレベルが上がるらしい、分かりやすく言うなら経験値二倍と言う奴だ。
……ここでおさらい、俺のレベルやステータスはカンストを通り越して限界突破済みだ、神様印のチートだから桁が億とかそんなレベル。
そして回復魔法がオーバーフローしてダメージに変わる、回復がダメージになるなら当然逆の現象も起こる、つまりそんなレベルの奴が初期レベルのNPCをぶん殴ったら……。
ブリキ人形の様な動きで背後を振り向くと、腰が曲がり老人特有の震えをしていた爺さんが、一気に二メートル近い巨漢になっていた。
服が内側から弾け飛んだのか、ゴリラの様な筋肉と丸太の様な足、それまで持っていた杖が鉛筆かなにかに見える。
そしてそんな状態にも関わらず、口にするのは『良い天気ですなぁ……』と言うセリフ、けど好々爺とした声質から一変、ドスの効いた野太い声になっていた。
……これ、うっかりヒロイン殴ろうもんなら一気にゴリラ系女子になるんじゃね? 行動がアレとかじゃなくて肉体的な意味で。
……神様、元の世界に帰らせて下さい。
因みに、この世界では主人公限定で色々バグってます。
例えばお買い物の際の釣り銭、一円でもお釣りが発生しようものならオーバーフローして0円になります。
モンスター倒してお金を手に入れたぞ!!→オーバーフローして所持金0。
宿屋で寝よう→回復量がオーバーフローして即死。
異世界はデンジャラス(白目