Aパート
後ろを振り向き辛い。なんか気になったことを聞いたら優しいとか言われたし、多分暖かい眼で見られているからすんごい辛い。
普通異世界武器、それも魔法ありき魔物ありきの世界から来たなら聖剣○○! とか愛剣○○! とかあるものだろ。俺の世界でも加熱する剣や居合いさせる剣とか作り出してたけど、製造番号やフューチャリングで名前付けてたやついたから気になったことなんだよなあ。
ぐだぐだ考えていた間にエレベーターが目的の場所まで降りて、ピンポーンと電子音が鳴るとドアが開いた。J-46と表示されている表示の下をくぐって廊下へ出る。
「到着到着っと、んでここは一部屋みたいな感じで、とある人のための場所だが」
「だがなんだ?」
「ん? ああすまん。だがのあとにはなにもない。癖みたいなものだ」
真っ直ぐに伸びる廊下の先にある扉を潜ると白衣を着たスタッフが計器や資料、ガラス越しに見える一人の男性を一定期間毎に観察している。
「すいません、遅くに失礼します」
「いえ、大丈夫です。これが仕事ですから」
「それで彼のぞう……んっ、状況は今大丈夫ですか?」
「ええ、今のところは第二層辺りかしら。こちらの様子も見えているみたいで」
「無駄足にならなくて良かった。それじゃあ説明するぞ」
ドアを入った所で立っていた騎士さんを呼んでガラスの前に立たせる。
「この中に居る人物の名前は吹易倫太郎さん。彼は室長と同じときに転成してきた人で能力名は『口寄席』」
「能力名?」
「っと、なんつーの? 新しく得た力を体に馴染ませるってか理解するってこと? だっけ?」
「なぜあなたが覚えてないのですか」
「ふわっとなぞっただけの意味なら覚えてるけど専門用語がな」
「では不肖ながら私から説明させていただきます。大雑把な説明を彼から聞いている様ですが改めまして、この世界、我々が生活していた世界は地球、ひいては『地球界(ワンス イズ アース)』と呼称されるようになってから現れました彼ら『異界人』」
例として示されたので手を肩の位置にまで挙げる。
「彼らも不思議と思いながら現れたことでしょうが、さらに不思議なことに、加えられた能力、発現した能力ともに意識下にて理解、操作が可能でした。可能なだけでした。彼らの認識ではふわふわしたものであり大雑把としか言えない物でした。0と1、それしかない――詳しく述べれば若干中途半端な物言いですが――そんななか彼らの一人が名付けたことにより形が決まった。と言いますか言葉的に言えば腑に落ちた、消化されたと言うことでしょう文字通り」
「俺が前に説明した感じで言えば、足首まであり、っある水を掬って投げるより水風船やコップの様に収めてしまえば利便性が増すみたいなことさね」
「認識によって姿を留める。そして留めたならあとは細かい微調整が可能になると言うわけだ。そう言うことだからさっさと始めましょう。彼の調子もいつまで保ってるかわからない」
他の研究員に合図を送るとパソコンを操作しはじめ窓の上に付いているスピーカーから音が漏れだす。スピーカーから発せられるものは男性が居る部屋に設置されたマイクが拾うものであり、それは言葉と言うには多すぎる音の濁流だ。
「そこから動かないこと。終わる瞬間は体で分かるから。あとスピーカーの音量ちょっと大きい。いじったあと戻してないな」
そう言うとスピーカーから出る音が小さくなりひそひそ話くらいの大きさになった。彼が話す音の濁流に言葉の意味がないから小さくても関係ないのだ。
「……まだなの、!? な、んだ今のは……」
「名付けの終わったときになるなんかだ。なんでなるのかはよくわからん」
黙って立っていることをいつまで続ければいいか聞こうとした瞬間に押されたみたいな衝撃を受けたかのように揺らいだ。さすが騎士ということもあり倒れるということは無かった。普通に一般的な何の訓練も受けていないヤツだと尻餅ついたり、自分で後ろに吹っ飛ぶのでそういう人たちにはクッションを用意される。
「いまので私の力が安定したのか。実感がないな」
「ま、たぶん攻撃系とか新たなる力より頭の中って感じだったからな。戦闘能力を最初から十分に持ってると足りないものが追加されるてなかんじで」
「そうか。ならここでの用事は終わりなんだな」
「ここには彼の顔見せ程度だから終わりだな」
ここでの用事が終わったので、と言うか今日の用事が終わったので家に帰るとする。
そして、扉を出る一歩手前でファイルを渡された。俺に渡されたと言うことは俺に関わりがあることだろう。エレベーターにたどり着く前に全部読んで 乗り込み口の横にある投函口に投げ入れておく。
「なにを読んでいたんだ?」
「ん? まあ今回の事だな。別にそんな重要なことじゃないよ。」
エレベーターでJ-46から離れて夜が開ける時間に家路についた。今日は騎士さんはうちの支部預かりで部屋を貸してあげた。