アバン
私と一緒に連れてこられたゲンゾウとは別れて多々ある部屋の中の一つに案内された。そこで私の世界と私自身の調書が行われた。
私の力はこの世界は元より、ここに招かれた人達の物とは別種……とはいかないが似通ったところが少ないらしい。
調書が間違っていないか確認を求められ、目を落として纏められた言葉を黙読していく。
一、今回の転移者『リーゼラルムヴェル・リリルウェラル・ログウィエムス・ケストゥムス』(以下甲とする)の世界は貴族、王族による統治、あるいは政治を行っている事からこちらの中世ヨーロッパに近しいものと思われる。
一、甲の世界の物である鎧、剣等は怪物、または動植物、鉱物から生成された物が使われている。こちらの世界に無いものは魔鉱石、魔物素材と呼ばれたものがある。
一、甲の世界の能力に魔法があり、こちらは他世界の物と共通する場所が見られる。詳細は別途処理が必要である。
‐‐‐‐‐‐‐
その他にも書かれているが間違った所はないと思う。何度か同じような質問を聞かれたが根比べの様なものだろう。この役員も見た目老人だが中身とちぐはぐな様子が見える。
問答が終わりすべての調書が取れたようで部屋から解放される。その際に記録係をしていた男性から紙を1枚渡された。このあとのスケジュールが書かれているようで、どこへ行けとなっている。まあ、場所はわからないが。
部屋を出ると案内には先ほどの役員が付くかと思いきや、ゲンゾウが長椅子に寝転がり規則正しい寝息をたてていた。多分だが建物内の案内役を言われたのだろうが、待っている間に寝てしまったのだろう。ゲンゾウには悪いが起こさせて貰おう。
「……、自称聴取は終わったみたいだな」
「ああ。ここにいるのだから案内をしてくれるんだろう?」
「俺以外の役員は寝不足の後払いか前借りをしているからな」
「お前は?」
「分割」
ゲンゾウは起きると犬猫を呼ぶように手を降ると歩き出した。
目的の場所に着くまで通る道にある主な部屋の説明をしてもらった。現状の地理をまとめる編纂室に情報をまとめる資料室会議に給湯、仮眠室など次々教えてもらい見た目が壁に埋め込まれた鉄の箱のエレベーターに乗り込む。そしてゲンゾウがパネルを操作すると小さな振動の後に急降下をしはじめた。
「興味本意で聞くけどさ、腰に付けてる剣の名前ってあるのか?」
ふと気になったからとゲンゾウから話しかけられた。
「いや、これは騎士になったときに聖女様から賜る祝福されただけの剣だ。私の世界の敵、対悪魔族用の武器でそれ以外では魔力を込めると切れ味が増す程度だな」
「ふぅ~ん。ただの剣ね。まあ、それはわかったから良いとして、あまり自分の力の事はべらべらとしゃびぇ……喋らない方がいいぞ。ましてや名前があるか聞いただけなのに能力を喋るとか」
眠気からかうろんな眼でこちらを振り返った。呆れたのかバカを見る目なのかわからないが注意を受けているとわかった。
「なぜ話してはいけないんだ?」
「そりゃ簡単。気が置ける味方がいないから、何処からか情報が漏れて弱点を突かれる。ただそれだけ。それに俺は言ってないだろ?」
それは合点が行く。知らない場所、知らない人。頼れる仲間も友も居らず私は我が身のみでここにいるのだ。私が知らない方法で聞かれていたらいつか殺されてしまうだろう。いつもは広く知れ渡っているから失念していた。
確かにゲンゾウは出来る事は言っていても出来ないことや発動条件を出会ってから口にしていない。
「優しいのだなゲンゾウは」
「これはマニュアルの方法と俺が興味本意に聞いたから出たことで、あとあとしっかりとした授業がある。来訪初期は絶対に受けなきゃなんねぇし偶然しってても問題はなにもない」
そう言い終わったあとゲンゾウは黙り混み階層表示をずっと見ていた。それでも私は彼は優しいと思う。