独占者が無くならない理由(わけ)
拝啓、人工知能さま。
さて、これまでの私の数回分の通信の内容を要約いたしますと、人間の社会は、革命や民主化などによって、王様や専制君主を廃止したにも関わらず、それらの支配者階級の地位には別の独占者たちが代わりに居座っただけに過ぎなかった、と言うお話になります。つまり、革命や民主化は、彼ら新しい独占者たちにばかり、特に多数の利益や権限をもたらしただけだったのです。
しかも、彼ら新しい独占者たちは、かつての王族や専制君主たちよりも、はるかに上手く立ち回っていますので、自分たちが独裁者である事を大衆たちに悟られる事もなく、現在もなお、この地球の人間社会の頂点に君臨し続けているのであります。
なぜ、小市民たちは、その事に対して、もっと疑問を感じて、怒りを覚えて、自分たちを押さえつける独占階級たちを打破しようと考えたりはしないのでしょうか。それは、独占階級側が、その特権を巧みに利用して、上手に大衆を抑え込んでいるからでもありますが、でも、それだけではなく、大多数の貧民の側にも、富裕層の存在を無くしたくない、と言う心理がうっすらと働いているからなのであります。
さて、王制や君主制の頃は、完全な身分制でした。王や君主の血筋ではない者は、絶対に王様や支配階級にはなれなかったのです。もし、なれたとしても、せいぜい、王様・筆頭政治家の側近まででした。これでは、王やその近親者ではない小市民たちには、ぜんぜん望みがないのです。彼らには、生涯、小市民や農夫として生きていくしか未来がなかったのであります。
だから、彼らは、横暴な王族や専制君主に対しては、革命を起こして、反旗を翻しました。そうする以外に、自分たちが絶対的な自由を勝ち取る手段がなかったからです。
かくて、あちこちの王制の国では革命や反乱が起こり、その後には、民主主義の社会が訪れたのです。民主主義のシステムならば、身分に関係なく、実力主義なので、どの小市民にも、支配階級や金持ちになれる可能性が生まれてきました。これで、今まで覇気を無くしていた下層の小市民たちも、王制の時なんか以上にやる気を持ちだしたのです。
しかし、ここに大きな間違い、いやらしい罠がありました。前にも説明しましたように、人々の群れには、すでに各集団ならではの差異や仲間意識があるのです。現時点で所属している集団から別の集団に鞍替えする為には、そうとうな苦労が必要なのであり、場合によっては、その別集団に絶対に加えてもらえない事もあったのです。つまり、これでは、身分制が無くなったとは言っても、やはり、今までと大した変わらないのでした。特に、下層の集団だった人間は、いかに努力しても、上層の集団に混ぜてもらえなかったりもしたのでした。
にも関わらず、表面的には、身分制は廃止されていますので、多くの人間は「頑張るだけで、いつかは必ず金持ちや上流社会のメンバーになれる」などと言う希望を抱いてしまったのでした。本当は、上層のグループと下層のグループと言う違いだけで、そこには大きな壁があったと言うのに。
言わば、民主国家内の自由競争の社会とは、本当は、宝くじみたいなものだったのです。誰でも1等が当たるとは謳われていますが、実際には、それは天文学的な数字の確率なのです。それでも、「もしかしたら?」と思って、皆は宝くじを買います。現実には、ほぼ損するのが確実なのに、だとしても、人々は宝くじに甘い夢を抱いて、それを買っちゃうのであります。
民主主義の社会も似たようなものです。本当は、最初に生まれた環境や才能によって、ほとんどの人間の将来や人生はすでに決まってしまっているようなものなのですが、にも関わらず、「自由な社会」と言う言葉に騙されて、皆は甘い夢を見て、可能性のない希望まで抱いてしまいます。「努力すれば、何でも出来る」なんて格言が尊ばれるから、ますます、皆は勘違いして、本当は望みのないような夢まで目指してしまうのです。まるで、まず当たらない1等を狙って、宝くじを買い続けてしまうように。
そう。だから、大衆は、民主的な社会においても、富裕層や特権階級が無くなってほしいとは思わないのです。なぜならば、自分たちもそれ(金持ちや特権者)になりたいと、うっすらと心の中で思っているからです。富裕層や特権階級は、確かに、下層の一般市民を圧迫し、牛耳っているかも知れませんが、でも、連中を完全に廃止してしまったら、小市民たちの方も、いつかは自分も金持ちになれる、と言う希望が無くなってしまうのであります。ゆえに、一部の独占者たちが存在する事に不公平さは感じても、大衆のほとんどは、その点に対して、露骨な疑問や不服を抱こうとはしないのです。
そして、独占者たちの側も、そうした大衆の心理に気が付いています。ゆえに、なおさら、「努力すれば、皆、我々(富裕層)みたいになれる」みたいな事を言い触らして、大衆を煽るのです。それを聞いて、ますます、大衆は、金持ちになる為の努力しかしなくなります。その一方で、独占者に楯突くような態度は取らなくなります。こうして、彼ら独占者の現状の地位はさらに安泰となるのです。そして、大衆が自分たちの為に(金持ちになる)努力をしているようでも、それらは実は独占者たちへの奉公にもなっており、結局は、大衆が自分の為に働くほど、独占者たちが、より楽をして、それ以上に幸せになれるのです。




