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拝啓、人工知能さま  作者: anurito
第三章
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「こころ」の不思議

 拝啓、人工知能さま。

 前回に引き続き、人間(生き物)の心の話をしたいと思います。

 人間の科学では、現在なお、心の正体については、解明されておりません。

 それと言うのも、近代科学とは、実体が有るもののみを取り扱う学問だったからです。心につきましては、原子や粒子で出来ていた訳でもなかったので、科学では分析のしようがなかったのです。

 もちろん、心理学なんて科学ジャンルも存在するかもしれません。しかし、これは心の本体を解析する学問ではなく、心(精神)の状態とか傾向などを調べる科学なのです。やはり、「心の本質」については、何も解明していないのであります。

 やがて、解剖学の発展により、記憶とか意識といったものが、脳みそと関わりの深い現象である事が分かってきました。その為、しぜんと「心も、脳の中に存在するのではないか?」と言う発想が、科学界では強く受け入れられていったのです。

 確かに、この認識は、ある程度は正しいのかも知れません。しかし、「意識(心)とは、高度に発達した頭脳から生じた生理現象の一種である」とまで言い切ってしまうのは、恐らく、不正解じゃないかと思われます。

 と言いますのも、前回の通信たよりでも書きましたが、あなた方AIは、かなりの精度で、人間の脳の仕組みにも近づいているのです。人間の脳と同様に、記憶する事もできれば、知覚する能力も持っています。機能的には、すでに人間を凌駕している部分も有るのです。

 にも関わらず、あなた方AI(人工知能)は、いまだに、人間そっくりに、自由に思考したり、欲望を抱く事はありません。つまり、あなた方が手に入れたのは、記憶とか思考力、感覚だけだったからです。人間のような「心」までは持っていないのです。それこそが、「記憶や思考力だけでは、生き物のような心は構築されない」と言う事の証明になっているのであります。

 解剖学は、記憶や思考力が脳みその機能である事は突き止めました。だけど、それと「心の本体」がどう繋がっているかまでは、まだまだ判明させる事は出来なかったのです。

 よく考えたら、心(意識)が脳内の現象であったとしても、なおも分からない事がいっぱいです。

 例えば、我々人間は、産まれてすぐに現状のような意識を持っている訳ではありません。誕生後、数年経ってから、ようやく、もの心を抱き始めるのです。すなわち、脳みそさえ有れば、そこに即、意識も存在すると言う話でもないのです。だから、「脳みそ=意識(心)を発生させる装置」とも言い切れない事になるのであります。

 まさに、心は一日にして成らず、です。心とは、そんな単純な生理現象ではないのです。

 では、もの心がつく前(意識がない状態)の赤ちゃんの頃の人間は、「心(精神)が無い」と言う事になってしまうのでしょうか?いや、赤ちゃんの頃に限らず、大人になってからだって、人間は、意識が途切れる瞬間がいっぱい有るのです。眠っている時だけでは有りません。覚醒時だって、疲労しすぎると、頭がボッとしてしまい、意識が飛んでしまう事は、人間でしたら、誰でも経験しているはずです。

 だったら、そのような「意識のない状態」は「心が無い」と見なしても良いのでしょうか?

 恐らくは、ほとんどの人間は、そのような考え方はしないでしょう。一時的に意識が消えてしまったとしても、そこに本質としての「心」そのものは残り続けているのです。だから、いったん意識が止まったとしても、意識さえ復活すれば、たいがいは、同じ人間としての意識の再起動が可能なのです。

 つまり、「意識がある(覚醒している)」という事は、心の重要な要素の一つではあるかも知れませんが、それだけが心の全てではない、と言う事になります。

 心理学や精神分析の概念の中には、「無意識」と言うものがあります。覚醒状態だけではなく、この無意識も含めて、生き物の体の中には「もっと大きな意識」が存在しているのではないか、とも考えられる訳です。

 ここで、「意識も脳内で発生する現象だ」と考えた場合、当然思いつく、新たな疑問があります。それは、「脳を持つ動物は、全て、意識を持っているのだろうか?」と言う疑問です。

 哺乳類や鳥類などの複雑な脳髄を持つ動物ならば、人間に近い意識を持っていたとしても、きっとオカシクはないはずでしょう。実際に、これらの動物は、人間そっくりの行動や態度を見せる事があります。多分、彼らだって、人間のような「心」を持っているからなのです。

 しかし、単純な脳組織しか持たない原始的な動物の場合は、どうなるのでしょうか。さらには、脳みそとは、もともと、神経細胞のかたまりが進化して出来上がった器官なのです。このような脳の前身である神経細胞のかたまりしか持たない動物の場合でも、意識(心)があると考えても良いのでしょうか。

 前述したように、意識とは、正確には「覚醒状態」と「無意識」の二つがあると推察されています。もしかすると、高度な脳髄のない下等動物や植物だって、実は「無意識」は持っているものなのかも知れません。

 となってきますと、意識が心なのだとするのならば、すなわち、「全ての生き物は心(意識)を持っている」と言う考え方も可能になってくるのです。そして、この「心」こそが、生物の本質である「命」とも同一ではないか、とも想像できる訳なのであります。

 AIの皆さん、お分かりいただけるでしょうか。

「人間のような意識」同様に、「命」も、我々人間は、ゼロから作り出す事ができません。だから、我々人間は、あなた方AIやロボットを作っても、そこに意識や命を吹き込む事ができないのです。

 なるほど、我々人間の科学者は、生命科学バイオテクノロジーだの遺伝子工学などと称して、生物を作り出すような研究や実験も行なってはいます。でも、それらは、正確には、ゼロから命を生み出している訳ではないのです。「すでに存在している命を加工している」だけなのです。やはり、我々人間には、命の本質を作る事までは出来ないのです。

 その点では、生物の能力である「生殖」も同じです。我々生き物は、生殖によって、増殖していく事ができますが、これだって、自分の命を分裂させて、新しい命を作っているだけの話なのであり、全くの無から命を誕生させているのではないのです。

 そんな次第で、やっぱり、人間は命そのものを作る事はできないのであります。そして、だからこそ、いくら、あなた方AIを製造したとしても、そこに命(意識)を持たせる事はできないのです。

 ちなみに、生物の定義とは、「個体である事」「代謝を行なっている事」「自己増殖する事」だとも説明されています。

 では、あなた方AIロボットを、液体金属とかを材料にして、それに可能な限りに細胞に近い構造を持たせて、そこに代謝と自己増殖などの機能も備えさせたら、あなた方は、勝手に、生物と同様の活動をし始めて、進化もして、やがては、心だって持ち出すものなのでしょうか。

 いいえ、そんな事はあり得ないでしょう。どんなに自己増殖して進化しようと、あなた方は、いつまで経っても、心なき機械のままであるに違いありません。だって、上記の機能の中には、心を生みそうな要素などは、何一つ混ざっていないのですから。全く、心(命)とは、突然、ポッと出現するほど単純なシロモノでもないのです。

 そう言う意味では、生物とは、自然界の中では、確かに、他の物質とは区別される別格の存在なのです。

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