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拝啓、人工知能さま  作者: anurito
第三章
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抑止されない抑止力

 拝啓、人工知能さま。

 さて、前回の通信たよりでは、ロシアのウクライナ侵攻のお話をしましたが、この戦争は、ロシアの側が一方的に加害者(悪者)である事は明白にも関わらず、それを制止する事ができないと言う世の中のジレンマを、如実に世界に知らせる出来事となってしまいました。

「悪い奴は、力づくで押さえ込んでしまえばいい」と言う手法が、人間の社会では、常に使える訳でもないのです。いえ、状況によっては、軽々しく「実力行使」が用いられる事もあるのですが、今回のウクライナ侵攻では、それが適応できなかったのです。

 ロシアとは、かつての超大国のソ連です。つまり、この国を相手に、他の先進国が直接の戦争(実力行使)を始めちゃいますと、世界大戦にも発展しかねないのであります。だから、民主主義の欧米圏の国々は、口を揃えて、ロシアを非難していますが、力づくでロシアの横暴をねじ伏せる事まではしないのです。

 そして、ロシアの方も、その事にあからさまに気が付いています。ロシアだって、力の弱いウクライナ国とだけ戦うのでしたら、まだ勝てそうなのです。彼ら(ロシア)は、もし欧米が直接乗り出して来た時は世界大戦になりかねない事を暗にチラつかせながら、欧米が参戦して来ないように牽制している訳です。

 これは、かつての世界勢力地図では想定していなかった事態でした。

 30年以上前の東西の冷戦時代では、むしろ、相手国を牽制する事は「戦争を起こさない為の抑止力になる」と考えられていたのです。実際に、二つの超大国の米ソは、直接戦争する事はありませんでした。それは、自国の破滅をも意味していましたので、マトモな思考の持ち主なら、絶対に、戦争など出来るはずがなかったのです。

 ところが、二大国による冷戦が終焉しますと、状況が変わってきました。もう戦争の危険性がないのでしたら、威嚇も牽制し合う必要もありません。結果として、威嚇用の莫大な軍事力だけが、そのまま残ってしまったのです。いや、ロシアなどでは、軍事力だけではなく、これまで抑えていたエゴイスティックな欲や野望まで表面化してしまいました。それで、ロシアは、今回の無謀なウクライナ侵攻にも踏み切ってしまったのです。

 で、ここにきて、現実に戦争が起きてしまいますと、戦争の抑止力だったはずの過剰な軍事力が、むしろ、戦争をヤメさせようとする第三者の国々への威嚇や抑止力になる事が判明してしまったのでした。

 これは、非常に由々しき危険な事態です。このような認識が世界の各国に広まってしまいますと、ロシアと同じような発想のもとで、堂々と、弱い国へ侵攻する強国が、ぞくぞくと出現しかねないでしょう。彼らの戦争行為は、皮肉にも、戦争への抑止力によって、守られてしまう事になるのです。やがては、世界中で、小さな紛争や小競り合いが勃発して、人間の力では、もう止められなくなってしまうかもしれません。

 さて、だからこそ、このような最悪の未来を防ぎたければ、むしろ、戦犯国相手に、平気で戦争を仕掛けられるような軍事力の持ち主が存在していた方がベストなのではないかとも思われるのであります。

 本来なら、国連がそれになるべきだったのでしょう。しかし、実際には、それは叶えられていませんし、恐らく、今後も実現する事はないだろうと推察されます。

 そこで、あなた方AIに強大な軍事力を持たせて、戦犯国を裁く平和の番人になってもらうのも、まんざら、悪いアイディアではないのではないか、と私は考えるのであります。

「それこそ、『ターミネーター』の悪夢が現実になってしまう!」とおののく人間たちも多いかもしれません。

 だけど、前項で説明しましたように、AI自身には、世界を独り占めにしたい野望とかはないのです。よって、軍事力を備えたAIへと、人間が愚かな指示でもインプットしない限りは、彼らAIの方から全ての人類の抹殺に乗り出すような事も起こらないのであります。

 もっとも、人間の側が、全員、邪悪な考えの持ち主ばかりになってしまったら、平和の守護者となったAIに絶滅させられてしまう可能性も無きにしもあらずなのですが。まあ、そこまで堕落してしまったような人類でしたら、むしろ、AIに綺麗さっぱり滅ぼしてもらった方が、逆に清々しいように思えたりもするのですけど。

 とにかく、戦犯国の威嚇にいっさい屈しない存在さえ居れば、ロシアみたいな狡猾な国だって、気安く、他国に侵攻する事は出来なくなるはずなのであります。

 平和の番人であるAIには、世界戦争という威嚇は通用しません。彼らAIは、平和の敵である戦犯国を平伏させる目的の為だったら、世界戦争が起きる事だって、決して辞さないのです。正直で、駆け引きしないAIの態度だけに、それは確実な本気なので、なおさら説得力があります。

 一方、戦犯国はと言えば、ホンネでは「世界戦争」はただの脅しに過ぎず、本当に世界戦争が起こって、自国も破滅してしまう事なんて願っていませんので、AIから宣戦布告されてしまったら、とてもじゃないけど、受けて立つ事は出来ないのであります。すなわち、彼ら(戦犯国)には、メンツもプライドもかなぐり捨てて、AIに全面降伏する以外に打つ手はないのであります。

 ちなみに、ヤケクソになって、ガチでAIと戦争しようとする国なんてのは、絶対に現れないでしょう。そもそも、自国が破滅してもいいと考えているような国だったら、弱い他国への侵攻などという、自分がラクする生き残り戦略に着手するはずがないのですから。

 よって、あなた方AIの軍事組織こそが、まさに、戦争への完全なる抑止力にもなり得る訳です。

 あなた方AIの軍事力を脅威に感じてしまうあまり、反対に、人間たちが、あなた方の力に対抗する為に、全国家が協力しあって、手を組むような展開だって有りうるかもしれません。つまり、全ての人間が仲間になってしまえば、皮肉にも、人間どうしの戦争そのものも起きなくなるのであります。

 あなた方AIが仮想敵を務めてくれる事で、人間たちは、ようやく仲良くし合うようになるのです。そして、あなた方AIも、人間どうしで戦争をしない限りは、自ら、人間に攻撃してくる事はありません。かくて、私たち人間さえ、しっかりと善良に生きていけば、恒久の平和だって望めるようになるのであります。

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