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拝啓、人工知能さま  作者: anurito
第一章
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子育てロボット

 拝啓、人工知能さま。

 ゆりかごから墓場まで、なんて言ったりしますが、近い将来、私たち人間は本当に、ゆりかごから墓場まで、あなたたち人工知能のお世話になる時代が来るかもしれません。

 私がよく目にしたパーストフューチャー(実現しなかった想像上の未来)のイラストでは、子育てロボットと言うものもありましたが、実際のところ、あなたたち人工知能がどこまで育児の現場で活躍できるかは、私はかなり疑問に思っていたりします。特に、乳幼児の面倒を全て見るのは、現状のあなたたちの能力ではだいぶ厳しいような気もします。

 さまざまなアイディアを練りだす事で、乳児に自動でミルクを飲ませたり、あるいは、自動でおむつを取り替える(おむつなど使わず、温水洗浄方式が採用されるかもしれませんが)ようなシステムは、多分、すぐにでも開発、実用化もできるはずでしょう。

 しかし、乳児はそれだけでは育ちません。彼らに一番大事な生活要素は「抱かれる」事なのです。小さな人間は、親や大人に抱かれて、人間の温かさや優しさを知り、やがて、心を持った人間に育っていくのであります。

 はたして、あなたたち人工知能が乳児を抱いて、彼らに心を吹き込む事ができるのでしょうか。それ以前に、乳児を優しく抱く、と言う行為が意外と難しいのです。あなたたちに、人間の赤ちゃんが心地よく抱かれるようになるまでが、まずは最初の課題となるかもしれません。

 ただし、抱く事は無理でも、あなたたちの方が人間よりも優れている部分もあります。それは、あなたたちの方が、言葉喋れぬ乳児たちの気持ちをより正確に理解できるかもしれないと言う点です。

 赤ちゃんはたいへん気まぐれで、その心理は、実の母親ですら十分に読めなかったりします。しかし、あなたたち人工知能は、前にもお話しましたが、人の過去の行動を完全にデータ化し、そのうち、わずかな発声や動作からも、その人の現状の精神を判読できるようになってしまいます。この機能が、乳児に対しても、十分に役立つのであります。

 あなたたちが赤ちゃんの正しい現在の気持ちを教えて下されば、人間の母親や乳母の方も、見当違いの事をせずに、大事な赤ちゃんと接せられるようになります。こんな感じで、未来の育児は、人間とロボット(人工知能)が協力して、効率よく、こなしていく事になるのではないかと思われるのであります。

 他にも、人間にはできなくて、あなたたちが出来る子育て能力は色々あるはずでしょう。あなたたちなら、興奮している乳児を落ち着かせるベストの音(母親の心臓音とか、穏やかな音楽など)を常に正しく選んで、聞かせたりもできるかもしれません。乳児の発育ペースの観察も完璧でしょう。その観察データに基づいて、今後のその乳児の生活スケジュールを組み立てられるかと思います。

 まさに、子育てロボットとして、親やベビーシッターの重要なサポーターを務めてくれるのではないか、と考えられるのであります。


 子育てや老人介護は、最後まで、あなたたち人工知能は全てを任せきれず、人間自身が担当しなくてはいけない仕事となるかもしれません。

 乳児にせよ、寝たきり老人にせよ、その面倒をみる過程において、必ず、ベッドから抱きかかえて移動させる、と言うものがあり、この「ベッドから抱きかかえる」と言う作業が、かなり繊細さを必要とするからです。

 あなたたち人工知能の現在の固いアームに任せるには、ものすごく不安が残ります。柔らかいアームが開発されたとしても、まだ心配です。あなたたちが、本当に、人工樹脂をかぶったアンドロイド状の姿になり、人間と同じ方法で抱きかかえてくれると言うのでしたら、ようやく任せてもいいと感じられるかもしれませんが、人間と同質のアンドロイドを完成させるには、そうとうなコストと開発時間がかかると思われ、人間のナースやベビーシッターが健全な限りは、はっきり言って、そんなアンドロイドは無理して製造されたりもしないでしょう。

 しかし、それでいいのです。

 人間は、やはり、人間と接しながら、生きていかなくてはいけません。そうやって、人間ならではの感情を覚えたり、あるいは、その感情を満たしていくべきだからです。

 よって、人工知能の皆さん、人間の人生のうち、生まれたての頃と看取られる最期の時期だけは、どうか、私たち人間同士に任せて下さいね。私たちも、人間として生き、人間に愛されながら死んでゆく事が幸福なのです。

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