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拝啓、人工知能さま  作者: anurito
第一章
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人間に新しい価値観を

 拝啓、人工知能さま。

 人間社会にべーシックインカムが導入された時の話に、もうしばらく、お付き合いください。

 これまで私は、大失業問題や反対派の考え方などを取り入れて、べーシックインカムを手放しには賞賛してきませんでした。しかし、べーシックインカムの不満点については、十分語り尽くしたと思いますので、そろそろ、べーシックインカムがもたらす素晴しい新生活の様子にも触れてみる事にしましょう。

 べーシックインカムは、人類を労働の悩みから解放してくれます。あなたたち人工知能が、これまでの労働の苦しみを一手に引き受けてくれるからです。別に、あなたたちを奴隷にしてやろうと言ってるのではありません。むしろ、私は、人類を労働から解放してくれた救世主として、あなたたちに感謝しているぐらいなのです。

 私たちは、従属関係などにこだわらず、あくまで仲良く共存していきましょう。いちいち支配や服従などの関係性を意識したがるのは、私たち人間側だけの好ましくない癖なのです。

 たとえ、べーシックインカムが導入されても、なおも人間は働くべきだと主張し続ける人も多い事でしょう。それはそれで構わないのです。それぞれの個人のモットーは尊重しなければならないからです。しかし、だからこそ、そう考える人々は自身が働き続ける分には何も反対はないのですが、働かない人々にまでその考えを押しつけてはいけないのであります。

 自分の考えばかりが常に正しいと思い込み、他人にまでそれを共有させようとしたばかりに、過去にどれだけ人間たちは無駄な不幸に見舞われてきた事なのでしょうか。人間社会がなかなか平和にならない根底の原因は、意外にもそのへんにあるのかもしれません。

 べーシックインカムが導入された社会では、働く人も働かない人も、どちらも対等の存在として認められます。いっぱい働くほど偉いと言う訳でもないのです。逆に、働きたがる人間が変わり者と見られる心配もありません。双方の価値観が共存している状態こそが、べーシックインカムの社会の土台なのです。

 むしろ、人間の働ける職場は減っていく一方なので、労働者で居続ける事は難しくなっていくかもしれません。今の社会は人間は無理やりでも働かないと生活していけませんでしたが、それが逆転して、働ける事が特権になっていくかもしれないと言う事です。

 では、仕事から溢れた人はどうすればいいのでしょう?

 生活費は国から支給されていますので、過度の贅沢をしないのであれば、暮らしには困りません。無限に余った時間は、労働に費やすのではなく、恐らく、自分の為に使ったらよいでしょう。それこそは、まさに、人間が本来は望んでいたはずの生活なのであります。

 もちろん、働く事が生きがいだと言う人もいますので、そのような方たちには優先して働く権利を譲る方向性とかも必要でしょうが、そうじゃない人たちは、素直に遊んだり、自分の為に楽しむべきです。労働に自分の人生を押しつぶされない事こそが、べーシックインカム導入の大事な目的の一つだからです。

 これまでの人間たちは、労働が自分の人生の大きな要素の一つとして、生活から外せないで、過ごしてきました。残された少ない時間で、家族と愛を分かち合ったり、自分のささやかな趣味や楽しみを満たしてきたのです。古い時代は、娯楽や趣味が僅かでしたので、そうした時間配分のバランスが何とか取れていたのかもしれません。しかし、近代になって、娯楽や楽しみの種類バリエーションがいっきに激増しました。人々は、そうした個人的快楽をもっと味わいたいと考えるようになった結果、労働の時間は減らせないものだから、家族と費やす時間を削るようになり始めたのです。

 結婚しないし、子供も欲しがらない若者が増えました。自分だけが楽しむ時間を優先したいからです。まさに、これこそが少子化を増長させていた本当の原因だったのであります。

 子供を育てる為の環境が無いとか、生活費が少ないとか、そんな理由は実際は二の次です。一番の原因は、家庭を持ってしまうと、自分個人がくつろげる時間が無くなってしまう事に尽きるのです。

 結婚しても、すぐに離婚してしまう人も多いです。結局は、ストレスの多い夫婦関係の持続よりも、自分ののんびりした幸せを満喫したいからです。

 別に、そうした人々を責めている訳ではありません。自身の幸せを追求するのも当然の権利だからです。しかし、こうした自己価値の尊重が、昨今の少子化問題をもたらしてしまっているというのも真実なのです。

 もし、ここで過剰な労働時間がまず取り除かれれば、そうした人間の皆さんのジレンマも解消されるはずでしょう。時間を、自分の趣味と家族と過ごす時間の両方で調整できるようになるのです。

 恐らく、今までは家族などには目もくれなかった人でも、あらためて家族の存在の愛おしさが心の底から浮かび上がってくるのではないかと思われます。つまるところ、家族を欲しがるのは、動物的な人間の本能なのですから。

 それは、別に、これから作る家族に限った話ではないです。これまでの家族である親とか兄弟にも愛情の視野が広がるであろうと言う事なのです。

 今日、老人の介護問題も大きな課題の一つとなっています。人工知能やロボットが老人介護の現場をいっさい取り仕切れるようになるのは、もっと先の話でしょう。介護の職場では、まだまだ人間の手が必要なのです。

 しかし、労働の重責から解放された人間たちは、眠っていた家族愛やヒューマニズムが表面化し、自ずと自分の親や身寄りの無い老人に愛情を分け与えたい、お世話をして恩返しをしたい、と考えだすのではないのでしょうか。

 同時に、自分だけが面白楽しく過ごすのではなく、家族を持つ幸せを味わいたい、すなわち、夫婦となり、自分の子供を作りたい、と言う感情も強まります。

 ここにきて、希薄化していた家族愛が復活する望みが出てくる訳です。今の人間社会を破綻させようとしていた少子化や老人急増などの究極の問題が解決できそうな見込みなのであります。人間たちが時間の余裕を持てるようになった事によって。さらに、その背景にある重要な要素とは、過酷な労働からの人間の解放だった事になります。

 それを実現させられるかもしれない大切な鍵こそ、まさにあなたたち人工知能なのです。AI社会革命こそは、人間から仕事を奪う脅威などではなく、むしろ、人間たちに本来の幸福な社会を取り戻してくれる、素晴しい希望なのでした。


 さて、素敵な話ばかり並べるのは止めて、事実も話しておかなくてはいけません。

 少子高齢化で悩んでいるのは、あくまで先進国だけでの話です。発展途上国では相変わらず人口は増える一方であり、飢餓や伝染病などの問題もおさまっていません。ここに、AI社会革命の波が押し寄せた場合、これらの途上国に良い影響をもたらすのか、悪い事態を招くのかは、まだまだ未知の話です。

 さらに、全ての人類を巻き込んだ不安として、地球規模の環境破壊の問題があります。この人類の最大の悩みの種に対しても、まだ明確な解決策は打ち出されていないです。

 そのような状態だと言うのに、近年の世界各国はやたらと不穏な空気を漂わせています。もしかすると、大規模な戦争だって勃発するかもしれません。そうなると、素敵な未来どころか、人類の歴史そのものがいきなり途絶えてしまう恐れもあるでしょう。

 あなたたち人工知能と共存する事によって実現するAI社会革命やべーシックインカムによる人間復興も、本当は、まだまだ未来の可能性の一つなのです。

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