五
『ねーねー……! 和樹くん……!』
後ろの席から背中を突かれ、ひそひそ声が聞こえてくる。
振り向くと、まだ幼い顔つきをした女子が座っていた。
ここは小学校らしい。
木製の机はどれも低く、黒板の方を向くと、優しそうな女の先生が何やら喋っていた。
教室を一通り見回すと、後ろの女の子の方へ向き直る。
『なぁに?』
『はい、これ、回して!』
ふっくらとした小さな手で渡されたのは、小さな四つ折りの紙。
『え、なぁに、これ?』
『えへへ、今、流行ってるんだって!』
紙を回すのが流行っているのか?
と思ったが、それだけではないらしい。
男子も女子も、皆やっている。
『メッセージを書いて、みんなで読むの……!』
『へえ、そうなんだ……。僕も、やってみようかな……』
面白そうだと思った俺は、その紙回しに、少しだけ参加した。
『ね、ねぇねぇ、美香ちゃん』
そのころの俺には、好きな子が一人。
まだ幼かったけど、告白したいとは思っていた。
だから、その頃流行った紙回しで告白しようと、紙に書いて、その子の下駄箱に入れたんだ。
『皆には伝えていなかったんだけど、昨日、美香ちゃんが転校しました』
だけど、その紙を見る前に、きっと美香ちゃんは引っ越して行った。
紙を入れた下駄箱を見ると、まだ紙が残っていたからだ。
…………これは、いつの思い出なのだろう……?
これは確か、小学校の……二年生くらい……?
「ん……」
また、寝ていた。
気がつけば、カミの膝に頭をのせて、階段に横になっている。
「また寝たね。よく寝るよ」
起き上がると、隣でカミが呆れた顔をしていた。
指で目をこすると、あくびをしながら伸びをする。
「今回は話しかけて来なかったんだね」
「隣にいるんだし、わざわざ良いかなって」
「そっか。……あのさ、さっき俺、夢……見たんだ」
言うと、カミは首をコテンと横に傾ける。
そんな姿も、どこかで見たことがあるような気がしたけれど、気のせいだろうと深くは考えなかった。
「どんな?」
「小学校の頃の、夢……」