四
「えっと……」
「宮川君だよね?」
「あ……うん」
女の子が顔を上げる。
薄暗い中、外灯の光で照らされて見えた顔。
色白で、柔らかくカールされた肩までの茶色い髪がよく似合っている。
小さな鼻に釣り合った目はぱっちりと大きくて、瞳は黒く澄んでいる。
でも、それを、俺はどこかで見たことがあるような気がした。
どこだ……?
「来てくれて良かった」
「来てって、呼ばれたから」
「うん。ありがと」
女の子の口元が、少し上がる。
笑うと頬に笑窪ができていて、何だか愛らしい。
「……で、あの……カミは……」
「へ、カミ?」
俺が勝手に付けてしまった名前に驚いたのか、間抜けな声が聞こえてきた。
と思ったら、すぐに笑い声に変わる。
「あははっ、何それ、カミって!」
「だ、だって……起きたら机の上に紙が置いてあるし、今も……神社に居るし……」
「なるほどー! じゃあ良いよ、カミで」
「うん……」
勝手に決めてしまった名前だから否定されるかとは思ったけれど、すんなりと受け入れてくれてほっとする。
会話が止まってしまって話題を探していると、カミの方から口を開いた。
「……私はね、神社の敷地内じゃないと姿を現すことができないんだ。まあ、つまり、神社から出ると姿が消えちゃうの。だから君を呼び出すことになっちゃったんだけど……ごめんね?」
「あぁ……うん? 別にそれは、いいけど……」
それにしても、神社から出ると姿が消えてしまうとは、どういう事なのだろう。
カミの発言に違和感を覚えながら、うやむやと頷く。
カミは足を揺らして、外灯の明かりに反射する髪を指でいじっていた。
風に流されて頬にはりついた髪をどけた俺は、階段に座ったままのカミに聞く。
「ああ、それで……頼みたい事って、何?」
「ん? あー」
カミは階段から立ち上がると、後ろで手を組み、俺の前に移動してくる。
ふわりとした茶色い髪が、肩から滑り落ちて揺れた。
「仲直りの、手伝い」
「……え?」
それを聞いた俺は、眉をひそめた。
仲直りなんて、自分達でするものじゃないのだろうか。
「仲直りなんて、そんなの、ちゃんと自分達で解決しなよ」
今神社で直接会ったばかりで、よく知りもしない女の子の喧嘩の仲直りの手伝い。
そんな事で俺を呼ぶ意味が分からない。
「……それが、無理なんだよ」
けれどそう言ったカミの顔は、笑ったような、困ったような。
ほら、話すから座って! と背中を押され、言われるまま階段に座る。
その隣にカミが座って、また足を揺らした。
「無理って……何で?」
「あのね……私、死んじゃったから」
カミの顔は、下を向いて垂れた髪の毛で隠れて見えなかった。