三十三
「そんな、忘れるなんて無理だよ……」
あれだけ、好きだったのに……
「忘れるなんて……」
歪んだ視界の先にあるのは、もう一枚の紙だった。
『恋だって、して良いんだよ』
「恋……」
公園で見た咲良の顔を思い出す。
外灯に照らされて見えた顔は、あの漫画のように、苦しそうで。
『私のせいで、和樹が苦しむのは嫌』
瞼を瞑って涙を落とす度に、目の前に現れる四つ折りの紙。
ただ次に出てきたのは、小さな四つ折りの紙ではなく。
シンプルな、手紙だった。
『咲良と仲良くなって、遊ぶようになって』
『咲良に対する和樹の気持ちが少しずつだけど変わっていったことを、私は知ってる』
「咲良に対する俺の気持ち……」
自分の胸の辺りを、ぎゅっと掴む。
「俺が……咲良を……」
『だから、お願い』
………………。
「…………わかったよ……」
手紙を優しく手に取って呟く。
それから、一番下の行から数行開けたところに書かれた文。
『これで、最後のカミ回し。』
『幸せになってね』
『私は、みんなを見守ってるから』
手紙、最後のカミ回しは、そこで終わった。
知らないうちに頬を伝った涙が、手紙の上に落ちる。
「そうか……俺は……」
呟いた後、いや、違うと、頭を振って掻き消した。
美香は、俺達を見守っていると言った。
そして、この手紙で本当に、カミ回しが終わってしまった。
だから、最後に。
「……有り難う」
俺は目を瞑って、そう言った。
これまで読んでくださって有り難うございます。
感想、評価など、宜しくお願いします。




