三十一
「……あ、そういえば」
ツリーの灯りから目をはずして、咲良の方を見る。
「咲良が書いた漫画は、いつ見せてくれるんだ?」
「あぁ……ちょっと来て」
言うと咲良は俺の袖を掴んで、人がほとんどいない場所まで引っ張っていった。
「え、何?」
外灯のしたにあるベンチに座った咲良に続いて、俺もその隣に座る。
鞄の中から一冊のノートを出した咲良が、それをこっちに渡す。
「有り難う」
初めの方は少し見てしまったので、然り気無くページを飛ばしながら読んだ。
真ん中を過ぎると、まだ読んだことのない場面に変わる。
暗い公園に、二つの影がかかれていた。
『好きです……』
と大きな吹き出しの中に書かれた次のコマには、和樹と……咲良がいる。
『和樹くん』
見開きのページ全体で書かれた、咲良の苦しそうな表情。
それに、何故か心臓の鼓動が大きくなる。
いや、ただの、漫画だから……
ただの……
「和樹」
読み終わった漫画から顔をあげると、こっちを見ている咲良と目が合う。
「な、なに?」
いつの間にか立っていたらしい咲良を、俺が見上げる形になっていた。
それから、咲良がすぅっと息を吸うのが聞こえる。
「和樹は、まだ美香の事、好き?」
「え……」
予想外の質問に、思わず声が漏れる。
もちろん、美香の事は……
「好きだ。でも……そんな気持ちも、いつかは忘れなきゃいけないのかなって、思ってる」
「そっか。……別に、好きな気持ちは忘れなくて良いと思う」
「そうなのかな……有り難う」
静かな遊園地の一角に、声が響く。
はぁ、っと吐いた白い息が、暗闇にとけた。
「ねぇ」
上からの声に、下を向いてしまった顔が上がる。
「和樹___」
その言葉に、俺は目を見開いた。




