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カミ回し   作者: 天川 奏
美香と咲良と俺
3/33

 時計を見ると、十時を回っていた。

 思ったより長く寝ていたようだ。


 寝ぼけたままの目で机の上を見ると、いつもと変わらずに置かれた、四つ折りの紙があった。


 『頼みたい事』


 寝ている時に、言っていたことか。

 読んだ紙から顔を上げると、机の上にもう一枚、四つ折りの紙が置かれていた。


 『その神社に来てほしいの。貴方の家の近くにあるって言った。』


 二枚目の紙には、そう書かれていた。


 「一番近い神社か……」


 くるくると回る椅子に座りながら、伸びをする。

 ついでに机の端を蹴ると、座ったままのくるくる椅子は、俺と一緒に勢いよく机から離れていった。

 

 ここから一番近い神社なら、自転車だと十分くらいで行けるだろう。

 二階にある自室から出て階段をおりるが、そこはしんと静まり返っていて、人の気配を感じなかった。

 親はまだ帰っていないようだ。今日は残業なのだろうか。

 残業って、何時に終わるんだろう?

 働いたことない俺にはわからない。


 「行っても、良いかな……」


 立ち上がって、リュックサックに適当に物を詰める。

 水筒とか、財布とか、そんなもん。

 重さを無くした椅子が、くるくると回る。

 親が帰ってきても部屋には入ってこないだろうし、靴がなくても……多分怒られることはない。


 「いってきます……」


 帰ってきたときと同じで、発した言葉に返事はない。

 靴を履いて玄関を出ると、紺色の空に星がいくつも出ていた。

 少しじめじめとした風が頬にくっつくようで、どこともなくオケラの鳴き声が聞こえてくる。

 車庫に入ると、いつも通学で使っている自転車を出して跨いだ。

 家を出て右に曲がり、少し急な坂を上る。

 突き当たりにある小さな駄菓子屋で角を右に曲がって、それから道のりに走っていけば神社が見えた。


 「はぁっ……」


 強く握られたブレーキは、キュッと高い悲鳴を上げる。

 スタンドを立てると、神社の壁の近くへ自転車を置いた。

 自転車かごに入れていたリュックサックを背負いなおすと、周りにある外灯の明かりに照らされて、所々光を反射している神社の砂利を踏む。


 「……来てくれたの?」


 その時また、あの綺麗な声が聞こえた。

 頭の中で話し掛けられているのではない。

 ちゃんと、聞こえる。

 耳から。


 「え……」


 ザクザクと砂利を踏みながら、左右に向かい合っている社を通り過ぎて、正面にある、大きな社に目を向ける。 

 そこには自分と同じくらいの歳の女の子が一人、賽銭箱の前にある階段に、脚を組んで座っていた。

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