二十九
心がもやもやとしたような感じのまま、咲良との約束の日がやって来た。
「行ってきます」
今日も家に親はいないけれど、しっかり出かける挨拶をして玄関を出る。
待ち合わせ場所は家から少し遠い遊園地だったため、早めに家を出た。
「遅いぞー」
今回も咲良の方が早く来ていて、集合時間ピッタリに着いたはずなのに、遅いぞと怒られる。
「五分前集合~」
「あ、五分前集合か」
「あ、ってなによ」
咲良は、膝下まである紺色のワンピースを着ていた。
無地で、腰に細い金色のベルトをしている。
髪は耳の下で結ばれていて、横に流されていた。
「へへっ、和樹が紺色好きって言ってたからさ、紺色のワンピースを着て来てみたの」
俺の視線に気付いたのか、咲良が言う。
「うん、良いと思う。俺、ワンピース好きだし」
言うと咲良は、嬉しそうにその場で一回転した。
「じゃあ行くぞ~」
広告で見たツリーがある場所は、その遊園地の大きな広場だった。
「まだ、灯りつかないねぇ」
「だって、まだ午後の一時だからね」
あ、そっか~、と咲良が苦笑する。
ツリーの隣に立っている看板を見ると、イルミネーションがつくのは午後の六時だと書かれていた。
「あと五時間もあるね」
「六時まで、遊園地で遊んでるか」
「だね~」
遊園地内の案内図を見ながら、咲良は遊園地の乗り物がある方へと歩き出す。
「ジェットコースター乗る?」
「え、いや、それは……」
どっちかと言えば、外の激しい乗り物より、室内か屋根の下の静かな物の方が良いのだが。
「うーん、もっとスリルを体験しようよ」
「お化け屋敷くらいなら、別に良いと思うけど……」
「あ、お化け屋敷も良いね」
グーにした右手を左手の上にポンっとおいて言うと、僕の手を引っ張ってお化け屋敷のある方向に歩き出した。
真っ暗なお化け屋敷に入ると、まずは角から髪の長い女の人が出てくると言う仕掛けが待っていた。それに早くも驚いていた咲良は、咄嗟に僕の袖を握る。
「ち、ちょっと、ちゃんと生きてるか、ずっと喋っておいてね!」
「あー、うん。あーあー、生きてるよー」
「何でそんなに余裕なの! わぁあ……!」
以外と僕は平気だったのだが、咲良は凄くビビっていたようで、お化け屋敷を出たあと、涙目の咲良を落ち着けるのに時間がかかったのだった。




