二十六
学校からの帰り道。
今日は放課後に委員会があった為に、少し帰りが遅くなってしまった。
と言っても、まだ六時なのだが、冬の空は明らかに真っ暗だ。
持参していた懐中電灯をつける。
「おぉ、明るい」
隣で咲良が声をあげる。
漫画の事があってから、咲良には話しかけても俯いたままで返事を返してもらえなかったのだが、半日経ったからかそのことも忘れてしまったらしい。
制服の上には指定の茶色いコートを着ていて、咲良はブカブカすぎるその袖口を、邪魔そうに振っていた。
いつものように隣を歩く咲良は、俺から見れば頭の天辺しか見えない。
「寒いね」
「だね。そろそろカイロ持ってこようかな」
「……ふっふっふ」
肩を大袈裟に揺らして笑った咲良は、私もう持ってきてるんだ~と、ポケットから出したカイロを見せてきた。
それを咲良の手から取って、自分の手にあてる。
「あっ、ちょっと!」
「ちょっとだけ貸してよ」
数秒手にあてると、ちゃんとカイロは返した。
ムスッとした顔を向けられたが、横目で見ただけで返した。
「……和樹」
両手でカイロを挟むようにして持っていた咲良がそれをポケットにしまって、こちらを見上げる。
「ん?」
「……漫画読んだんだよね」
ぎくりとして咲良の方を見ると、俺を真っ直ぐ見つめた瞳があった。
「うん、まぁ……」
「……どうだった?」
「あぁ……登場人物の名前とか俺等と全部一緒でさ、最初は凄いびっくりした」
「あー、そうだね。……だってあれ、想像の物語じゃないもん……」
視線を前に向けた咲良は、背中で手を組んだ。
「実は中学のときにさ、美香が好きな人の話しをしてたんだよね。小学校の時の初恋ってだけで名前は聞いてなかったけど……今回の事でそれが和樹だってわかったし、漫画で描いてみようかと」
「なるほど」
「うん」
漫画で咲良が和樹の事を好きだと言うことは聞いて良いことなのかどうか迷ったが、結局は聞かないことにしてしまった。
「あれ、まだ続くの?」
「う、うん」
咲良は、何故か手をイジイジし始めた。
何か言いたそうな雰囲気ではあったが、何も聞かないでいるうちに分かれ道につき、咲良とは手を振って別れた。




