二十五
一時間目が終わった放課、咲良が俺の机にやって来た。
「……あのさ、私が描いてる漫画のノートって、知らない?」
相変わらず声は潜めるが、咲良が俺に漫画の話をするのを躊躇うことは無くなった。
咲良は、少し焦っているような感じがした。
俺は昨日持って帰ってしまったノートの事を思い出す。
「あ……漫画のノート」
俺も声を潜める。
ノートは確か、まだ俺の鞄の中だったような。
「知ってる?」
「うん……」
でもどうだろう。
持って帰ってしまった事を言って、変にぎくしゃくしないだろうか。
「……ちょっと待って」
席を立って、ロッカーからノートを取り出した。
それを見た咲良が、驚いたように目を見開く。
「ごめん……昨日の水族館で咲良が売店に戻って行ったとき、咲良の鞄が倒れて、漫画、ちょっと見ちゃったんだ」
ちょっとって言うか、全部だけど……
「……うん。よ、読んじゃったんだね……」
俯いた咲良の髪の間から覗いた耳が、どんどんと赤くなっていく。
ノートを持つ手には、ぎゅっと力が入っていた。
「えっと……どうした?」
「いやあの、なんでも……っていうか、漫画……読んでも、気付かない……?」
その問いかけに、俺は戸惑った。
気づかないとは、どういうことだろう。
「えっと、気付くって、何?」
聞き返すと咲良は、すぅっと息を吸ってから、
「はぁ~!」
と、大袈裟に溜め息をついた。
「でも、あの漫画の話し、美香と俺と咲良って出てきてるよな……」
「あ、あぁ、あれね、美香の為に、私が代わりに楽しい学園生活を描いてあげたいなって思って。漫画だけどさ……ってえ、なんで知ってるのよ……やっぱり全部読んだな?」
「うっ、ごめん……でも、そっか」
だよな、やっぱり。
ただの漫画。
咲良が俺を好きだってことも、ただのストーリー設定だ。
「やっぱり咲良、優しいんだな」
「へ? あああ、ありがと……」
珍しく動揺して、声が上擦っていた。
「何だよ。顔も赤かったり、声も上擦ってたりするし……」
「なんでも無いからっ」
あたふたと視線を泳がせて俺に背中を向けると、咲良はスタスタと自分の席に戻っていってしまった。
「……お前、いつのまにか咲良と仲良くなってるよなぁ。大分前まで、あんなにスルーされてたのに」
いつから居たのか、俺の隣に友人である景一が寄ってきていた。
「おぅ、確かにそうだよな……」
俺だって、ここまで仲良くなるなんて思っても見なかった。
咲良はなにをあんなに慌てていたのかと考えながらも景一と軽く雑談をしていると、短い休憩時間はあっと言う間に終わってしまった。




