二十二
土曜日。
財布や携帯やらの貴重品をリュックにしまうと、玄関を出る。
いつも着ているような半袖シャツの上には、少し厚めのコートを羽織っていた。
シンプルな白いTシャツに、薄茶色のコートと紺色のズボン。
俺はいつものように「行ってきます」と言って家を出た。
季節はもう冬に近くなってきていた。
開館時間が朝の十時らしく、今日は遅めに家を出た。
空はもう明るい。
空気が冷たくて人のいない道は、無駄に寂しかった。
口から白い息が漏れて、自転車のスタンドを上げた金属の音が空に響く。
「おはよう」
待ち合わせ場所には咲良の方が先に着いていた。
自転車を降り、手で支える。
「おはよう。和樹、今日は早めに出たんだ?」
言われて時計を見ると、集合時間よりも七分程早かった。
咲良は、白色で少し花柄の混じったワンピースに、紺色のコートを着ていて、長い黒髪は後ろで緩い三つ編みにしている。
「じゃあ、水族館行こー!」
「おう」
クラスでの咲良は大人しいが、俺の前では素を見せてくれている。
反対側を向いて出発しようとする咲良の髪が揺れる。
その後について、自転車を引きながら歩き出した。
「到着! やった、早く行こ!」
その水族館は、待ち合わせの場所から数分で着いた。
入り口の前にある大きな噴水からは水が出ていて、側を通ると、水面で跳ねた水が肌に当たって冷たかった。
「何が見たい?」
咲良が館内の地図を見ながら聞いてくる。
「あ、十一時からイルカショーやるじゃん。見たいな」
「私も見たい! じゃあ、それまで近くにある深海生物でも見てよ」
「うん、そうだね」
薄暗くなった館内で光る深海生物を一生懸命に覗き込む姿に笑い合って、十一時からのイルカショーを見た後、お昼ご飯も兼ねて近くの売店で弁当とお茶を買った。
それを持って外にあるベンチに座ると、透明のプラスチックパックに入った弁当を食べる。
温めてもらった弁当の中に入っていた大きめの唐揚げは、口に入れると油が染み出て美味しかった。
ご飯は別の容器に入っていて、黒ゴマののっている部分をすくって口に運ぶ。
売店で売っている白米は冷たくても好きだから、温めてもらわなかった。
ほどよく温かい唐揚げと冷たい白米が混ざり合って、すごく美味しい。
「美味しいね」
「うん」
俺が弁当を食べ終わると、隣に座る咲良が、ねぇ、と声をかけてきた。
「ん?」
「ちょっと待っててくれる?」
そう言われて、また売店の方に走っていった咲良の代わりに荷物番をすることになる。
弁当も食べ終わって次は何をするか考えていると、隣に置いてあった咲良の鞄が、俺の方に倒れてきた。
「おっと」
口の閉まっていなかった茶色い小さめの鞄から、黄色の薄いノートが覗く。
何も飾られていない、無地のノートだ。
ただ少し使い古されていて、ノートの角は黒ずんでいるところがある。
悪いとは思ったが、それが気になった俺はノートを手にとって開いた。




