二十一
ここからは咲良との話が始まります。
美香を通じて知り合った咲良と和樹のお話。
美香の心残りであるものが無くなった。
だからもう、美香には会えない。
次の日学校に行くと、咲良の目が、ほんのりと赤いような気がした。
「……ねぇ」
それから再び咲良から話しかけられたのは、美香が消えてしまってから数日経った頃だった。
美香を通じて知り合って会話をしただけだった俺らは、あの日以来は全く喋っていなかったし、びっくりした。
声をかけられ、ロッカーから取り出した弁当箱を机に置く。
「珍しいね。咲良からって」
「別に珍しくないけど」
言うと、咲良は唇を尖らせてムスッとした。
「あれから喋ってないじゃない。なんか、寂しくて」
「まぁー、俺らは、特に共通点がある訳じゃないしね」
「……うん、そうだけどさ、これから一緒に帰らない?」
「え?」
帰りのことを、咲良から誘ってくるなんて思わなかった。
けれど、一緒に帰ろうと言ってくれるのは嬉しい。
「別に、良いけど……」
「そう、よかった。下駄箱集合ね」
安心したように微笑んだ咲良は、窓側にある席に戻っていく。
二人だけで帰ったりしたことは初めてだから、はじめは全く会話も続かなかった。
それでも毎日一緒に帰るようになれば、それもなくなって、今では一番の友達と呼べるようになったかもしれない。
美香と再会した神社にも、たまに二人で行ったりするようになった。
あの日のことを思い出しながら、懐かしいなと美香を想う。
「……ねぇ、どこに行きたい?」
それから、ある日俺の目の前に差し出された紙に書いてあったのは、『水族館』やら『動物園』やらの文字。
一日暇な日があったりすれば、咲良は時々こうして遊びに誘ってくる。
「えっと……水族館?」
俺は、室内で落ち着いて過ごせそうな水族館を選んだ。
どちらかというとインドア派だし、外で歩き回るよりも、室内でゆっくりしていたいのだ。
咲良には毎回言っているはずなのだが、こうして何時も聞いてくるので、俺はそのたびに水族館と即答する。
予定は今週の土曜日になった。
室内で遊べる場所に出かけるのは好きだから、水族館に遊びにいけるのが楽しみになりつつあった。




