二十
暫く、その空を見つめる。
『わたしは、和樹くんが、好きだよ。今でも、大好きだよ!』
頭の中で、美香の声が聞こえたような気がした。
ぎゅっと握り直した左の手のひらに、紙の感触が触る。
「あ……」
少しだけ、くしゃくしゃになってしまった紙。
それと、まだ新しい、綺麗に四つ折りにされた真っ白な紙が一つ。
くしゃくしゃになっている方の紙を広げてみる。
『わたしも、和樹くんが、すきだよ‼』
そこには、小学校の時に自分が美香の下駄箱に入れたソレと、似たような文だった。
大きく、一生懸命に書かれた字。
それは、今の美香が書いたとは思えなかった。
もう一枚の方も、広げてみる。
『小学校の時に返事しようと思って、書いてたやつだよ。
私もね、和樹くんが好きだった。今でも、ずっと大好き‼』
字は大人びて、丁度良い大きさで、綺麗になっていた。
下駄箱に入ったままで、読まずに転校したと、そう思っていた。
だけど美香は、しっかり、読んでいてくれた。
それと……
「美香っ__」
俺と美香は、両想いだった。
それでも、もう、遅いのだ。
「好きだよ……」
頬を、何か濡れたものが伝った。
それを手のひらで拭ってから、後ろを振り向いて歩き出す。
今日も変わらず、晩御飯の匂いが鼻をつく。
焼き魚のような、そんな匂い。
明日からは、もうここに美香は居ないだろう。
少しだけ美香との思い出を引き摺りながら、家までの道を帰った。
美香に会えたことは、きっと、忘れないから。
鼻をすすりながら神社を出る。
道路のすみに置いておいた自転車のスタンドを上げて帰ろうとした時、そこに人影があるのに気がついた。
「咲良……」
「美香、いっちゃったね……まだ言いたいことあったのになあ……」
「引き返してきたけど、もう遅かったよ……」と、咲良は少し鼻をすすりながら、神社の、さっきまで美香がいた場所を見る。
「私の連載が決まったとき、自分の事みたいに、一緒に喜んでくれて有り難う」
それだけ言って、咲良は笑った。
咲良の頬にも一粒、涙が伝っていた。
三人のお話は、ここまで。
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