二
『君、宮川くんっていうんだね』
「っ……!」
また声が聞こえた。
眠っていると何処かから女の子のような声がするようになったのは、今日で二日目だ。
その声は透き通っていて、綺麗で。
本当はいけない居眠りのはずなのに、眠くないときも、声が聞きたくて、居眠りしたいな、なんて思ってしまう。
変だけど。
「お前……最近よく寝てんな」
授業と授業の間の放課。
友人の景一が声をかけて来た。
「おう……なんかさあ、声が聞こえるんだよ」
「声? お前、寝ぼけすぎだろ。大丈夫か?」
「え、あー……」
教室の扉から出て行く景一の背中を見送って、首を傾げる。
寝ぼけているだけなのか?
じゃあ、そうしたら、あの紙は何なんだろう。
「ただいまー……」
玄関に入って言ったその言葉の後に、返事は無かった。
今日も親は仕事なのか。
——―ガチャリ
部屋に入ると鞄を置いて、今日も机の上に置いてあった紙を、小さなアルミ缶にしまう。
捨てるのも勿体無い気がしたので、紙は保管することにしたのだ。
この日の紙に書いてあったのは、
『私は、———です』
名前が書いてあったのかは知らないが、肝心なところはボケている。
そういえば、一番初めに声を聞いた時も、名前を聞く前に終わってしまったか。
紙をしまったアルミ缶を棚に戻すと、鞄から教科書やらを出して、机に置く。
帰ったらいつも、受験勉強だ。
ただ、この日は……
『こんばんは。疲れてるのね』
また聞こえる……
『ねぇ、聞いて?』
何だろ……
『宮川君の家の近くって、神社があるんじゃない?』
神社?
神社なんて、合格祈願とかをしに行ったりしたくらいで、そんなに行くこともないけれど。
確かにあった気がする。
『あるのね? よかった。私、貴方に頼みたいことがあるの』
「ふぁ……」
また、寝ていた。
最後に聞こえた頼みたいこととは、一体何なのだろうか。