十九
それから美香と咲良は、俺を通じて数分喋っていた。
小学校の時の話には俺も参加して、紙回しが流行っていたこと、それらが共通で美香が見えることも話した。
話も一段落着いて、座っていた階段から立ち上がった咲良が神社の鳥居の方へ走る。
「美香に会えて良かった。二人とも、じゃーね!」
「じゃーね」
「じゃーね、って。……またな‼」
手を振りながら、咲良は神社に歩いて来た道を戻っていく。
こっちも手を振り返して見送っていると、咲良の影は見えなくなった。
「最後に会えて良かったな~」
隣で立ったままの美香が、言いながら背伸びをする。
「そうだね」
「咲良も帰ったことだし、和樹くんも帰りなよ」
「うん、そうする」
秋に近づいてきたこともあって、夜も流石に寒い。
空を見上げても星一つ無く、何処か寂しい。
「またね」
「またね……」
紺色のスクール鞄を肩にかけなおして、砂利をザクザクと踏みながら歩く。
少し歩いたところで、ふと、美香が気になって後ろを振り返った。
「……美香?」
「和樹くん」
振り返って見た美香は笑顔だった。
ただそれは寂しそうで、そして。
「美香、それ……」
体は透けていた。
「……私の心残りは、咲良と仲直りできなかったこと」
「だから__」と美香は続ける。
「私はもう、居なくなるよ」
「そんな__」
次第に透けて、見えなくなっていく美香を、一足先に想像する。
「嫌だ……」
俺は美香が好きで、だけど、やっと会えた美香は死んでいて。
幽霊で。
いつか別れが来るとか、本当はどこかで分かってたのかも知れない。
「仲直り、手伝ってくれて有り難う」
「美香……!」
美香を空へ連れていくように、丸い蛍のような光が体から上へ上って行く。
だんたんと透けていった美香は、やがて、本当に空へ消えてしまった。
「美香……」
目の中で、まだ残像を残している階段を見つめらながら、名前を呼ぶ事しか出来なかった。
「さよなら……」
階段を見つめた後、呟いて空を見上げた。
さっきまで一番星すら見えなかった空は、バケツでぶちまけたように、綺麗に飾られていた。




