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カミ回し   作者: 天川 奏
美香と咲良と俺
18/33

十八

 次の日目を覚ますと、捲れた布団から出た足に冷たい風があたって、体が震えた。

 冷房を付けて寝るのも、もう終わりらしい。

 すっかり秋の雰囲気に飲まれていた。


 「行ってきまーす」


 と言って、玄関のドアを開ける。

 目玉焼きとハムが乗った食パンを口に入れて、ボロボロになったローファーの爪先を鳴らした。

 半袖のシャツの上には、ニットベストを着ている。


 この日俺は、放課後に会いたいと言ってくれた咲良の事を信じて、話しかけなかった。


  ▩


 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴って、みんなが一斉に席を立つ。

 帰りの用意を済ませると、三階からの階段を降りて下駄箱に向かう。


 「行くか」


 「ちょっと遅かったね」


 「おう、悪い」


 下駄箱に着くと、木で作られたソレにもたれ掛かっている咲良に声をかけた。

 一緒に神社へ行くと、約束をしていたのだ。

 「じゃあ、行きましょ」という言葉で、靴を履いて歩き出す。


 角を数回曲がって暫く歩くと、いつもの神社が見えてきた。


 「美香!」


 と声をかけると、階段に座る影が少し動く。

 階段の前で立ち上がって、こっちに近寄ってくるようだった。


 「そこに居るの?」


 美香の事が見えない咲良が聞いてきたので、美香の目の前まで連れていき、ここだよと教える。


 「咲良……」


 「咲良……って言ってる」


 美香の言っていることを、そのまま繰り返す。

 

 「美香……ごめん。死んだなんて嘘だって疑ってた」


 「そんなの、気にしてないよ」

 「そんなの、気にしてないよ、って」


 相手のことも見えないせいもあって、咲良の目は、本当に目が見えないかのように、焦点がしっかりと合っていない。


 「私の連載が決まって、嬉しかったから皆に言っちゃったのも、転校は逃げたんじゃないってのも、宮川君から聞いた」


 「和樹くん、伝えてくれて有り難う」


 お礼を言う美香に、笑って返す。


 「一人で勝手に怒って、ごめん」


 咲良が顔を下に向けて俯く。

 

 「謝らなくても良いのに。わかったなら、それでいいから」

 「謝らなくても良いのに。わかったなら、それでいいから、だって」


 美香は優しく笑っている。

 その事を伝えると、再び顔を上げて、咲良はニコッと笑った。

 目の端に溜まった透明な粒が、外灯の光に照らされてキラリと反射したが、俺はそれに気付かない振りをした。

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