十五
「俺と美香は、小学校の同級生だったんだ。美香は小学校の時に転校しちゃったけど、その転校先の小学校から上がった中学で、咲良と友達になった」
「……うん」
咲良が、しぶしぶと頷く。
「それから、咲良が応募した漫画が連載されることを知った美香が、みんなに言っちゃったんだよね」
漫画の話をするときは、一応声を小さくする。
「みんなに言われたの、恥ずかしかった」
「だから、怒っちゃったの?」
再び顔を上げた咲良が、それも全部美香から聞いたのかと質問してきたので、うん、と頷いた。
頷いた俺を見たあと、今度は咲良の方も、うん、と頷いた。
「みんなに言われた上に、私がからかわれるようになっても止めてくれなかったし。それで私が怒った数日後に美香が転校したから、逃げたのかなって思った」
「でもあれ、美香は本当に嬉しくてやっちゃったことなんだよ」
「……そうだったんだ。私、ムキになりすぎてたね」
わかってくれたなら、これで良いかな。
と一応の事を話し終えた俺は、自分の席で荷物を片付け始めた。
チャイムと同時に朝の読書タイムが始まって、それから一時間目が終わった。
時々、咲良の方を見ると、色々と考え事をしているような顔をしていたし、無理に話しかけなくても良いだろうと、その日一は静かにしていた。
「ねぇ」
と、初めて咲良の方から声をかけられたのは、帰りの挨拶も終わって、放課後になってからだ。
「なに?」
そろそろ帰ろうかと思って肩に掛けた鞄を、机の上に一回下ろす。
「あのさ、宮川君には、死んじゃったっていう美香のこと、見えるんでしょ?」
「うん」
「明日の放課後、美香に会いに行きたい」
「……うん、良いよ!」
言い終わると、咲良は足早に教室から出ていってしまった。
咲良が美香と会いたいと言ってくれたことに、少し頬が緩んで、それを美香にも伝えに行こうと、自分も教室を出て、神社まで走った。
神社に着くまでの間、自分の心の中で、ワクワクしたような、ドキドキしたような感情が浮かんでくるのがわかる。
でもそれは、走っているせいかもしれないし、もしかすると、美香に会えるという楽しみからかもしれない。
美香が転校して、その頃の初恋も忘れかけそうになっていた俺が会った美香は、死んでいた。
幽霊だった。
それでも心臓がバクバクと脈打つのは、あの頃の初恋を思い出したからなのかも知れない。
ぼんやりと光を漏らす外灯の下に着くと、その下の階段の前で足を止めた。




