十四
家を出て右に曲がって、いつも通りの通学路を歩く。
近所の家の前を通ると、その家で飼われている犬に吠えられた。
朝でシンと静まり返った公園を外回りして、開店したばかりのうどん屋さんのダシの匂いを嗅ぐ。生暖かい空気と一緒に運ばれてきたそれに、朝ご飯を食べ損ねたお腹が反応を返す。
学校に行くまでの、その間、考えている事の大半が今朝の夢の事で埋まっていた。
「美香ちゃん」
幼い頃の雰囲気を残したままの、どこか懐かしく感じる女の子。
懐かしく感じるのは、小学校の時、俺と美香が同級生だったからだ。
更に俺は美香の事が好きだった。
だから、きっと、死んでしまったと言ったカミ……美香の声も聞こえたし、姿も見えた。
きっと共通点は、それだ。
「咲良」
教室に入ると、咲良の座る席に向かう。
日課になりそう。
「……」
え、スルーかよマジですか。
「さ、咲良、漫画家になりたいとか思った事ある?」
みんなには知られたくない事だと思うから、耳に顔を近づけて聞く。
「っ……!?」
驚いたのか、口をパクパクさせ始めた。
「なんで、知ってんの」
「やっぱり」
「なんで……知って……」
「美香から聞いたよ」
咲良が、少し周りをキョロキョロし始めた。
中学の時の様に、からかわれるかも知れないと思ったのだろう。
「美香から? ……やっぱり生きてたんじゃん」
誰もこっちを見ていないことを確認し終えたのか、目を伏せて下を向く。
「違う、死んじゃったのは本当。残念だけど」
「じゃあ、どういう事?」
「俺は、美香が見えるから」
俺がそう言うと、咲良がまた眉を寄せ、理解できないと言った胡散臭そうな目で見上げられてしまった。




