十三
『和樹くん、もしかして、美香ちゃんの事好きなの?』
まだ幼い顔をした男の子が眉を寄せながら、こちらを見てくる。
これは、夢だ。
俺は夢を見ている。
この間と似たような空間……教室に、低い椅子と机が並べてあって、クラスのあちこちで取っ組み合いをしたり、お喋りをしたりしている同級生達が目に写る。
『美香ちゃん……』
美香と言う名前には、確かに聞き覚えがあった。
咲良が言っていた名前。
そして、その名前は、俺が何故か懐かしく感じる女の子の名前であった。
『和樹くん、美香ちゃんの事よく見てるもん』
えへへーと笑う同級生。
確かに、この頃の俺には告白したいと思っていた女の子が一人いた。
それで告白しようと紙に書いて下駄箱に入れたが、それを読まないまま、きっとその子は引っ越して行ったと。
ついこの間の夢で見た。
『美香』
クラスを見渡すと、一人の女の子に目が留まった。
一番後ろの机で、静かに本を読んでいた女の子。
この子が美香ちゃんだろう、そう思ったのは、喋りかけて来た同級生も、その女の子の方を見ていたからだ。
『確かに、好きな子はいた』
『んー? どういうこと?』
『美香ちゃん……?』
俺は、トテトテと美香ちゃんの方へ近寄る。
『……何?』
返された声は、綺麗だった。
そして。
『え……』
正直、同級生だった美香って言う子の顔は、はっきり覚えていなかった。
好きだったけど記憶は曖昧だし、その美香ちゃんが転校してしまってからも会っていなかったから。
ただ、それでも俺には、わかった。
本から顔を上げた美香は、幼い頃の顔の雰囲気を残した女の子は。
『カミ……?』
間違いなかった。
「はっ……?」
カーテンから漏れる明るい光で、朝だとわかる。
ついさっき見ていた夢は、まだ頭の中に残っている。
心臓が、やけにうるさく鳴っていた。
「カミ……ミカ……?」
さっきの光景が頭をよぎり、知らぬ間に言葉を唇が紡いでいる。
本から顔を上げた美香の顔は、咲良との仲直りを手伝って欲しいと言ってきたカミと、そっくり似ていたからだ。
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