十二
「でね、咲良からそれ聞いたとき、私嬉しくて……皆にね、それ、言っちゃった」
まじか、そんなことか。
「それだけで?」
「ううん、そのあとにさ、咲良が漫画家になりたいって事がクラスに広がって、応援してくれる人もいたんだけど、咲良って、漫画描くようなイメージ無いでしょ?」
「まぁ、確かにな」
咲良は、長い黒髪とか落ち着いた雰囲気のせいからかも知れないけど、あまりそういうのを描いているとは思わない。
どっちかと言うとガリ勉では無いけれど、しっかり勉強をして、静かに本を読んでいる雰囲気だ。
「で、その漫画が恋愛もので、クラスの男子達にからかわれるようになっちゃったの」
恋愛か……ピュアなんだな。
「で、それでーってか?」
「うん、私が皆に言ったから、からかわれるようになっちゃったのに、私、何も止めなかったの」
「そりゃ、何で?」
「咲良が絵が得意ってことがわかってもらえて良かったと思ったから」
俺は、階段に座っているカミの、頭の天辺を見つめる。
風で撫でられた髪が、時々右から左に流れる。
「そしたらね、酷いって怒られて」
なるほど……
「喧嘩の理由はわかったよ」
これを、ちゃんと伝えたら良いのかな。
「よし、わかった。また来るよ」
俺はそう言うと、柱から背中を離して、カミに手を振りながら階段を下りた。
空を見上げると、もうすっかりオレンジ色で、歩いている途中、美味しそうな夕飯の匂いが漂ってくる。
もう七時くらいだろうか。
匂いを嗅いだせいか、自分のお腹まで減ってきた。
咲良が喧嘩の内容を話したくないって言ったのは、漫画家になりたかったことが知られたくなかったからなのかも知れない。
帰り道、そんなことを考えながら、家に着いた。




