プロローグ
この物語の最初の着想は15歳の頃ですので、そろそろ40年になります。
実は過去にマンガやら個人HPでの小説版公開やらしていますが、
それから数えてももう15年近く前の話。
どう考えても人生折り返しはとうに過ぎているので、
そろそろちゃんと最後まで物語を紡ぎたく、
ここに再起動します。
個人HP版読んでた方には申し訳ないですが、8話以降は新作になりますので、
しばらくお待ちください。
では、ジャンカードの物語を、はじめよう。
宇宙暦9992年。
「重力制御システム、4番までフェールアウト!」
「主動力炉再始動できません!」
「ファイティングシステム沈黙!手動制御に切り替えられません!」
地球連邦宇宙軍特殊艦隊旗艦、全長3.5キロに及ぶ威容を誇った「ジャンカードSSS」の戦闘艦橋ではクルーたちの怒号が飛び交っていた。コントロールパネルはアラートサインで赤く染まっている。異臭を放つガスが漏れ出ている。環境維持装置に致命的なダメージが加わっているようだ。
優美な曲線で構成された船体はビームで切り裂かれ、無惨な姿をさらしていた。眼下の惑星べラス・ミラスの重力につかまり、自由落下している。重力を振り切るだけの航行能力を喪ってしまっていた。
「補助動力をバリア回路に直結。アンチ・ショック・コーンを形成せよ。」
決然たる声が響いた。
SSS艦長、アイ・ナクガの凛とした声だ。
長身長髪の美しい女性である。宇宙軍に女性将校が多いといえども、中将の位はアイ・ナクガただひとりだけだ。また、ジャンカードという連邦軍にとって独特の意味を持つ艦を任されているだけの器量があった。
そして、今追い詰めている敵であるザウレア帝星軍の最後の宇宙戦艦とは深い因縁が存在した。それは彼女にとって私怨に近いものであったが、個人の憤怒よりも軍人としての判断を優先し、感情を抑えて毅然と立っていた。
SSSの動力系統が切り替えられ、艦体周辺に放物線状の力場が形成された。わずかに残っていた重力制御系が沈黙したため、落下速度が速まる。数分後にはベラス・ミラスの大気圏に突入するだろう。
数万キロ先から、光軸が伸びた。
SSSのアンチ・ショック・コーンにぶつかり、プラズマ化して消える。敵艦のビーム攻撃だ。
「艦長!」
「かまうな、やつも最後だ。総員退去!」
アイ・ナクガの命令は絶対だった。SSSを捨てると言うことにクルー全員悔いはあったが、すみやかに脱出シャトルに待避した。
だから、まさか艦長が一人残っているとは思いもよらなかったのだ。
艦橋の後部からシャトルが射出されてしばらく。
「艦長は?」
「なに?」
「アイ艦長!」
アイ・ナクガはSSSの戦闘艦橋にいた。
額に幾何学的な紋様が浮き出る。
5つの円が構成する紋章・・・。
その瞬間、沈黙していたSSSの主動力炉が突如咆吼をあげた!
重力を振り払い加速する。
「SSSをザウレア2にぶつけるつもりか!」
「フレアエンジンが暴走している!助からないぞ!」
SSSは彼方の敵に向かって突き進んでいく!
シャトルからはその姿が光る点となって、消えた。
しばらく後、閃光が宇宙を包んだ。
それがザウレア独立戦争の終結であり、同時に地球連邦統一を告げる光だった。
多くの悲しみと怒りを呑み込んで、ひとつの物語が幕を閉じた。
そして、16年がすぎた。宇宙暦10008年・・・。