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第六話 鳥のような声で歌うわ

「そうか、教会は駄目だったか。だが安心しろ、シャルロット。


 お前に似合う制服を縫っておいたのだよ、こんなこともあろうかと!」


「伯爵様、問題はそこじゃないです。確かにそれ可愛いですけど。


 っていうかそれご自分で縫ったんっすか?」


「ああ。きっとこのような可愛らしい服が似合うだろうと……」


「情熱の方向性が惜しいです」


 一緒に帰ってくれたドナが事情を説明してくれた。


 ドナはお茶を飲みながら、


 蟀谷を抑えて伯爵様が縫った制服を着た私を見つめて、溜息をつく。


 アルは溜息に不服そうだ。


 私に縫われたのは、私の背丈に合わせた、修道女が著る制服。


 くるぶしまでのトゥニカは淡い灰色で、


 アルが私に似合う似合うと普段から言っているレースが裾にあしらわれている。


 ウィンプルというものを被せてその上にベールを被っている。


 ロザリオはなく、代わりに真っ赤なルビーが一点ついて


 リボンの形状をした金色ブローチが一点胸に。


 装飾は華美すぎず、質素すぎず。


 全面に、「可愛らしさを売りにした淑女」が押し出されている服装だ。


「何だ、可愛いだろ」


「可愛いですよ、可愛すぎて困るんです。だけど、


 そういう問題じゃないんです」


「他にもな、衣装が」


 アルは、他にもメイド服や、バッスルドレスを手にとって私へ、


 さっと向ける。


「伯爵様、三十分後にシャルロットの可愛さについて語ってもいいです。


 それまでは黙っていてください」


「ほう、聞いてくれるのか! よし、黙ろう」


 ちょろい、アルはなんでこうもちょろいのか。


 やっと本題が話せると思ったドナが、お茶をぐいっと飲んでから一つずつ話す。


「まず見目が周囲にばれるのが一番駄目だと思うんです」


「見目?」


「伯爵様単体なら別にいいんですけどね、


 シャルロットは見るからに伯爵様のお連れだ。


 この村の視点で見ると。


 そこに成長しないっていう要素がでたら、


 伯爵様が噛んだこともろばれになるんっすよね」


「……吸血鬼だって怖がられちゃうのね?」


 アルも私も。


 ドナは頷いて、問題点について解決法を考えてくれた。


「三年が精々限度ですね。三年以内に、この世界の神様の教えを、


 できる限り教えます。賛美歌も。そしたら、旅に出るといいと思います」


「駄目だ」


 アルが首を左右にふって、一瞬だけ真剣みを帯びた瞳でドナを見つめた。


 ドナは気付かないようで、アルの否定にだけ気を取られ、小首傾げる。


「どうしてっすか」


「此処は……こ、この俺の偉業を成し遂げた土地だろう。


 人々に好かれる吸血鬼という偉業を。だから、離れるのは駄目だ」


「……なる程」


 ドナは何か納得はしていないけど、


 アルの言葉からして隠したい何かがあると判断し、席から立ち上がる。


「まぁ、二人で広める何かを考えてください。


 三年でどうにかするのも視野に含めて」


「わ、判った。それではな、ドナ。さぁシャルロットこちらへおいで。


 ああ、本当にその服が似合うなぁ、俺の聖乙女は」


 ドナが帰ってから、私はアルをじっと見つめる。


 アルが抱き上げたので、頬にそっと手をあてて、目を瞑る。


「何か、隠しているの?」


「隠し事ではないよ」


「何かここから離れたくない理由があるの?」


「……クリスティーヌの大好きな土地を、置いていけない。


 此処にはあいつとの思い出ばかりなのだよ。


 他の方法、か。俺には一切思いつかんよ。神など嫌いだというのに」


 それからふと気付く。


 ドナは結局、アルの語りを聞かなかったと。


 逃げの口実がうまいお兄ちゃんだなぁ。


 ……そういえば賛美歌をまだ教わっていない。


 この国の賛美歌はどういうものなのかな。


 私は前の世界にいた時の、流行歌を思い出しながら音程だけを


 適当な言葉で口ずさんでみる。


 できるだけ草原をイメージする。


 草原は軽やかで、世界に風と共に音色が広がりそうなイメージだから。


 鼻の奥に息が通るのを意識して、お腹に力を込めて歌う。


「……シャルロット。嗚呼、嗚呼、お前はなんて美しいのだろう。


 カナリヤのような歌声だ!


 お前のような綺麗な歌声、ついぞ聞いた覚えがないぞ!」


「アル、褒めすぎ」


 照れちゃうから……私は視線を反らす。


 反らしてから、アルを見やると、きらきらとした眼差しだった。


「うん、やはり俺の天使だな、シャルロットは。


 俺は思ったのだよ、俺の天使の思いが世へ伝わらぬわけがないと。


 歌を広めていくのは、どうだろう、シャルロット」

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