第四話 夜の貴方はかっこいいのね
「うう……」
明日からドナに連れられて近くの教会に行ってみよう、という話になった。
どうしても寝付けられない。
神様が吸血鬼でさえ受け入れてくれるのか、自信が無いの!
ぬいぐるみを手に、扉を一生懸命開けてみる。
廊下に出れば暗い室内――アルは何処の部屋にいるか、昼間なら判っていたのに。
まるで違う景色を見せられているみたいだ。
夜の怖さを見せられているみたい。
「アル……」
ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて、城の中を歩いていると、
遠くに狼の鳴き声が聞こえる。
狼は悪い物だってアルやドナが昼間言っていた。
日本じゃ狼にあったことないから、いまいちぴんとこなかったけれど、
すごく怖い!
「あるううううううう!」
泣きながら歩いていると、遠くに灯りが見えた。
灯りに近づくと、その部屋は綺麗な女の人の肖像画が飾られていた。
「シャルロット? やや、どうしたのだね、べそをかいている!」
室内にアルがいて、私はほっとして近づいた。
「アル、一人で寝るの怖いの」
「……――シャルロット、その誘いは他の男にしてはなるまいよ。ああ、あのドナでさえ駄目だとも」
アルは私を抱き上げて、じっと肖像画を見つめていた。
アルの体よりも大きな大きな肖像画だ。
「――ねぇ、この女の人……」
「俺の亡くなった妻だよ。人間だった、可愛い人だったよ。シャルロットも可愛いけれど」
「どんな人だったの?」
「トマト農家を本気で作ろうとしていた」
「え?」
「俺が人を噛みたくないと言ったら、トマト農家を本気で作ろうとして、
村の人は妻の農作業に惚れ惚れとしたのだよ。世界で一番、蜂の駆除がうまかった……」
た、たくましい奥様……。
吃驚していると、アルはけらけらと笑って、私を下ろして頭を撫でる。
「妻は、最初から最後まで人間だったよ――太陽の似合う人だった。
でも、俺は太陽よりは月が似合って欲しかった」
「……アル、まだ寂しい?」
「ははは、何を馬鹿なことを言う。シャルロットに、独り寝は嫌だと言われたら、
今日は素晴らしい日になる。
……本当に教会に通うのか?」
「うん、神様を信じなきゃいけないから」
「――未来の聖乙女よ、それならば一つ、忠告を。
神様は……とても残酷で気紛れだ。気をつけ給え。
さぁ、シャルロット一緒に寝よう。お前を抱きしめて寝ても宜しいか?」
「……アルどうしたの。今日は何だか普通の人みたいに、かっこいい」
だって私が抱きついても許される言葉を告げているから。
逃げ道を用意してくれている。
「俺はかっこいいぞ、いつだって。シャルロット、俺はお前だけの味方だよ」