第三話 ちょろい伯爵様ちょろい
ドナがこの城に、アルを心配してトマトを届ける毎日だったから、
この城にいる私としてはドナと話してばかりだった。
何せ、神様のいいところを教わりたかった。ドナは修道士だというから!
私はドナに、修道女になりたい旨を伝えた。
「うーん、……どうしてなりたいの?」
「……事情があって」
「でも、君の目は神様に縋って修道女になりたい子の目ではないから」
ドナは鋭い、どんくさい眼鏡しているのに鋭い。
アルが私を抱きかかえながら、不服を唱える。
「シャルロットがなりたいというのならば、させてやればよいだろう?」
「あのね、伯爵様。僕は貴方達の為を思って言ってるんですよ。
シャルロットが吸血鬼にされたと知ったら、伯爵様の信頼も地に落ちると
思うんですよね?」
半目で見つめられるとアルは、目をそらして私を益々抱きしめる。
心細いのかな。
「あのね……ドナとアルにだけ話す。私に何があったのか……」
「シャルロット? 何か事情があるんだね? 伯爵様、お茶いれてください」
「なぜこの俺が……」
「伯爵様、シャルロットに最高の物を与えたいと思いませんか」
「常々思う」
「僕じゃ最高のお茶は淹れられないっすよね」
「ではこの俺ならば可能だということだな! よし、淹れてくるぞ!」
アルがお茶を淹れてくるのを待ってから、私は少しずつ前の世界の話や、死んだこと。
前の世界に蘇る条件や、神様の話をした。
ドナは涙ぐんで、事情を聞いてくれたが、アルは不機嫌だった。
「そういうことなら……そうだね、提案なんだけれど」
「何?」
「伯爵様が認めたら、僕は君を薦めよう」
「ほんと!?」
「ドナ、何だと!? 俺は、貴様らに惑わされんぞ!」
「……アル、お願い」
「……っく……駄目だ駄目だ!
あんなところ行ったら、シャルロットとの時間が減るではないか!
今でさえドナに奪われているのに! 他の男のもとに行かれたら……」
「そんな目で見てるの、貴方しかいないわ」
「シャルロット! 俺はお前が心配なのだよ! 神なんか信じられん!」
ぷりぷりと怒るその姿は、どこか愛嬌があるけれど、ここでこっちが折れたら駄目だ……!
私は、じっと見上げて、両手を組んでお願いしてみる。
アルは、わなわなと震えていたが、ぎゅうっと抱きしめてくる。
「狡い、可愛い!! 頷くしかできなくなる!!」
「ちょろいなァ、伯爵様……心配っすよ、この先」
「でもいいか、何かあったりしたら一番に頼るんだ、この俺に! 神ではなく俺に願え、頼れ、祈れ!」
アルの真剣な物言いに、私の心臓がどきんとした……。
こ、こんなのあの人の見た目に、ときめいただけよ。きっとそうなんだから……!
そうだと言って、お願い吸血鬼になってから鼓動の無くなった心臓……。
こうして、私はシスターになりました。