第一話 そりゃあノルマ与えられますよね。
私は神様なんて信じていませんでした。
私は死ぬときですら、ただ一人、夜道で交通ルールを守っていたのに、
車がスピード違反を起こして、引かれて死んだのですから。
最後に見たのは、コンビニで買っていたお弁当が飛び散る姿で、勿体ないなぁと思いました。
折角仕事帰りだったから、自分へのご褒美にケーキもつけたのに!
体が痛い――なんて思う暇も無く、気付けば薔薇の庭園にいました。
『神を信じていないそうだな』
はい、でも自然でしたら信じてますよ。
『もう一度現世に蘇るチャンスを与えてもいい』
――それは、本当ですか?
『お前が神を信じるようになり、百万人お前の力により神を信じる者ができればな』
百万人? 神様を信じていない人が百万人いるのでしょうか。
『お前の世界と、此方の世界は神への嫌悪が違うのだよ。
さぁ、これより先は新しい世界。壱年後の満月までに神を信仰できたら、戻して
やろう』
閃光が走ったかと思ったら、そこは夢の世界と似た薔薇の庭園――。
甘い甘い花の香りは、愛しい。
瞳を開けたら、目の前には――黒髪の美丈夫がいました。
「どうした、迷子か?」
美丈夫が笑いかけてきました、かっこよくて儚くて、美しい人でした。
私は見惚れていましたが、ふと足下の水たまりを見て、驚きました。
「ふえええええええええ?!」
私は、世間で言う、ょぅじょになっていたのでした。
何これ、どうなっているの……髪の色は、現代じゃ有り得ない黄緑色。
目の色は、綺麗なアクアマリン。
何より、背丈が……この前「百二十センチになったのー」って喜んでいた姪と同じ背丈……!
「あああ、どうなっているの……ッ」
私が水たまりを見つめて頭を抱えていると、美丈夫が笑った気配がしました。
「そんなに水たまりが珍しいか?」
「え、あ、いえその……あの、此処どこですか?」
「やはり迷子か……此処は、アルーマ領土だ」
「なっ、どこ、どこですかそれ、ふええええ!?」
「……世間知らずなのか、随分と愛らしい」
相手の表情は面白い物を見つけた、とばかりに描いていて、何か嫌な予感がしました。
私は御礼を言って立ち去ろうと思ったのですが、
相手の瞳を見つめた瞬間身動きが取れなくなりました。
金色に光る、男の目――。
「少女よ、すまない――ひとつ、お前に謝りたい。
俺は手に入れたいのだよ、お前を。
お前には今のままいてほしくなった。
お前の幼い驚き声は、愛らしい。
世間知らずのまま閉じ込めておきたくなった――」
「ええと……あの……? こ、困りますッ」
「困るのは俺だ――嗚呼、何とも芳しい……」
へ、変態だーーーーっこの人!
ロリコンだーーーーー!!って驚く間もなく、声をあげる暇もなく、
変態男は私の指先に噛みついた。
噎せ返る程の色香が、ぶわりと開花し、私は顔中に熱が集まるのを意識してしまう!
それと同時に指先にも熱が高まる――変態男がちゅうちゅうと吸う度に、
私はくらくらとしてしまう。
よろめいた頃には――体温なんて感じなくなっていて。
木陰でも、太陽の暖かみが辛く感じる――。
これは、もしかして……。
「さぁ、おめでとう同胞よ。俺の花嫁としておいで」
私、吸血鬼にされちゃったんだ――。