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虹色キャンデー

作者: いときち

淡い恋心を抱きはじめる、思春期に入りかけた子どもの時代。


まだまだ恋の駆け引きなんて無理で、自分の気持ちにもウソをついてしまうその初々しい時代の、あまいひとかけら。

薄墨色の雲が空を染め、開いた窓からしっとりとした風が吹き込んできて髪を弄んだ。すこし暗い校庭と違い、教室は小学生の若さによっていつも通り、いやいつも外にいる人が教室の中で騒いでいるので、いつもよりも華やかなほどだった。




ホームルームも終わり、みんな思い思いに放課後を満喫している中、私は幼なじみの要とお喋りをしていた。

要とは一番の親友であり、いつも一緒に帰る中である。たわいのない話を、周りの雰囲気に流されて少し高めのテンションで話していると、騒ぐのに飽きたのかクラスメートの2人の男子が話に加わってきた。

「要と秋場って仲良いよな」

「秋場、要のこと好きだろ」




自分の気持ちを、本人の前で当てられて私は顔が熱くなるのを感じた。頭の中がぐるぐるする。周りの景色、音がすぅ、と遠くなっていき、私は思わず怒鳴るように叫んだ。

「好きじゃないもん、嫌いだもん!」

はっと、メガネをかけ直したときのように視界がクリアになる。要の澄んだ、しかし明らかに傷ついた瞳と目があった私は、その場を走り去った。いたたまれなかった。




いつもは要と帰る道を一人で歩く。目頭があつくなってふと空を見上げても、そこには重く垂れ込める鈍色の雲があるだけだった。

石を蹴っ飛ばしながら黙々と歩いていると、頭に冷たいものがおちてきた。

最初はぽつぽつとふっていたそれは、次第に激しくなっていく。

傘を持っていなかった私はそこにあった公園の東屋に逃げるしかなかった。




ひとりで膝をかかえていると、まるでこの世には自分しかいないような気持ちになってくるのはなんでだろう。

どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。要を傷つけてしまった。大好きな要を。

ポタポタと手の甲に涙がおちる。

明日、ごめんねってきちんと言おう。




そう考えているうちに、私はいつしか眠っていたらしい。眩しい夕日が顔にあたり、私はゆっくりと目を開けた。いつの間にか雨は止んでいて、公園の水溜りは茜色に染まっていた。頭が重い。家に帰る気にはまだなれなく、しばらくぼーっとしていた。




その時だ。公園の入り口に人影が現れたのは。一番会いたかった、しかしまだ会う勇気がなかったその要は私を見てほっと息をついてこちらに歩いてきた。

「ほら、帰るよ。おばさんも心配している」

まるで何事もなかったかのように微笑んで手を差し出された要の手をぼんやりと見つめていると、要は私の手を掴んで立たせた。





帰り道、要はまだ私の手を繋いだままだった。恥ずかしいやらなんやらで、私は顔を上げることができない。しかし、ずっと俯き加減に手を引かれて歩いていると、足元の水溜りにふと何かが見えた気がして、思わず顔を上げた。

「あ、虹」

私につられて顔を上げた要が呟いた。

茜色の空にはうっすらと虹がかかっていた。





「ごめんね」

小さい声で呟くのが精いっぱいだったけど、要はにっこりと笑って、繋いでない方の手を差し出してきた。受け取るとそれはころんとしたキャンデーだった。

口に含むと優しい甘さが広がっていく。

「虹って、夢を叶えてくれるんだって」

そうささやかれて、私はもう一度空を見上げてた。












もし、本当に叶えてくれるんだったら。

ずっと、要と一緒に帰りたい。

そう、虹とキャンデーに願った。

ついつい嫌いと言ってしまったり、ついつい意地悪しちゃったり。

でも後で後悔して、素直になれなくて。


そんな時代、貴方にもありませんでしたか?

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