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脇役人生  作者: 船楽きら
2/6

わたしとカフェ、そして歓迎会

カランコロン...


__賑わった街から少し離れたカフェに私たちは足を運んだ。

ここがわたしの新しい仕事場...

柊子達のいる会社と比べたら給料は安いし不便なところもある。だけどあの会社からは結構離れているし、ここに来るのは常連客ばかりらしい。いわゆる通の人は立ち寄るらしい。

でもここに決めた一番の理由はたった一人の従業員兼店長の楯山結弦(たてやまゆずる)さんがとても優しかったから。そしてこの店では料理も始めるらしく、わたしは料理が苦手でもなかったからだった。


「いらっしゃい....あ、沙、耶さん」


綺麗な顔立ちの楯山さんはこちらを見ると淹れかけのコーヒーをスッと止めて優しく微笑んでそう言った。


「こんにちは。......今日からよろしくお願いします」


わたしは緊張気味にそう言って一緒に来てくれた絢子のことを紹介した。

楯山さんは絢子にも微笑んでまたコーヒーを注ぎ始めた


「こんにちは。何か飲みますか?」


楯山さんはメニューを絢子に渡した。だけど絢子は「大丈夫です。私も仕事がありますから」と言って楯山さんに軽く会釈してわたしに「じゃあ行くね」と言って店を出て行った。


「...じゃあ、早速沙耶さんはこれを着てもらっていいですか?」

楯山さんは紙袋を差し出した。


「じゃあ奥の部屋を使って着替えてきてください」


わたしは楯山さんの促すままに奥の部屋へ行き、用意された服に着替えた。エプロンなどではなくきちんとした服だった。よくあるお洒落なカフェの制服のようだ。

わたしは素早く着替えると楯山さんのもとへ戻った。


「わぁ、お似合いです。じゃあ今日は僕のことを見て学んでください。」


楯山さんは少し目を輝かせたあと真剣な顔になってそう言った。


_この日はわたしはずっと楯山さんの仕事を見ていた。

客数はもっと少ないかと思っていたのだが、結構集まっていた。だけど皆それぞれ読書をしたり人それぞれで学生はあまり集まらないようだった。

楯山さんのコーヒーの淹れ方は繊細で見とれる程のもの。

たまに時間が空けば何かを作っていて、それを聞いたら「店に飾る置物」と言って小さな、コーヒーを細かく再現したようなものを見せてくれた。


そして夕方、楯山さんはカフェの入口の『Open』というのを『close』と変えるとこちらを振り向いて「うちは従業員とか他に雇ってないので大人数で歓迎会なんて出来ないので良かったら2人ですけど飲みに行きませんか?」と言った。

それはもう、遠慮がちに。

わたしは人が多いのが苦手だったからそういう会にはほとんど参加してなかったので都合が良かった。二人ならば大人数ではないしそんなに緊張しなくても大丈夫...


「ありがとうございます。行かせてもらっても?」

「はい!初の従業員ですから盛大に振る舞いたいところなのですがね...近くにいい料亭があるんです、そこに行きましょう」



「......いらっしゃ、ああユズさんか。いらっしゃい。」


40代程の少しヒゲを生やした店主と思しき男性は楯山さんと顔見知りなのか慣れた口調で話していた。

店の内装は全体的に和風で金額的にも高そうに思える。


「沙耶さん、好きなもの頼んでいいですよ」


楯山さんは笑顔でメニューを渡した。開くと色んな和食の名前が並べられている。

....え?値段、書いてない......

わたしはそのメニューを見て思った。金額が書いてないということは相当高いのだ、と。貧乏育ちのわたしはそういう事が書いてある本を読んだことがあった為、背筋が凍ったような気がした。

楯山さんの表情を伺うと彼は笑顔で店主さんに「今日のおすすめと、鯛の煮付け下さーい」と言ってわたしの方を見てまた口を開いて、「沙耶さんは何頼みますか?」と言った。


お気に入りの店、とは言ってもここまで高そうなお店とは...。

わたしは慌てながらも一番値段の安そうな物を頼んだ。

店主さんは料理を準備しながらこちらをニヤニヤと見て「ユズさんの彼女さん?」と聞いてくる。

そういう関係ではないのにな。


「いいえ、僕のお店の新しい従業員さん」


館山さんはとても華やかな笑顔でさも嬉しそうにそう言った。それを見た店主さんは少し不服そうな顔をしたものの「まぁいいか」と小さく呟いたあと料理を私たちの前に出した。


「じゃあ、えっと....沙耶さん。改めましてよろしくお願いします!」

楯山さんは緊張したのか最後は裏声になりながらもそう言った。

「はい、よろしくお願いします。」


わたしもそれに返すようにそう言うと楯山さんは「食べましょう」と言って出された食べ物を食べ始めた。

___食べている最中、お店のことなどを色々教えてもらった。

そして気付くと二人共食べ終わっていて、私が財布を出すと...


「あ、いいですよ。今日は僕が払います」

そう、当然のように言って払ってくれた。金額はもっと高いかと予想していたのにそれを遥かに下回った。

それでもわたしは店をでて歩く途中ずっとお礼を言い続けた。

「いいんです。でもそこまで言うなら、働いて返してくださいね?」



「じゃあまた明日.....」

私がそう言葉を放つと楯山さんは店を出て、私がわかる大通りの道まで案内してくれた。

わたしも同じように踵を返して帰路へと着いたのだった。

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