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 カタカタカタカタ…。不気味な音だ。静かなくせに、頭の奥底に鋭く響くようなそれ。虫唾のように、気が付かない間に。


 カタカタカタカタ…。あたり一面は真っ暗で、ところどころに鈍く光る灯りの存在が確認できる。突き抜けるような黒色。無底だ。おそらくひきずりこまれてしまったら、二度と帰ることはできない。怪しい闇が、一面に張り巡らされているのだ。

 人々はどうした?こんなにも近くに恐ろしい恐怖が待ち受けているというのに、いったいどうしたんだ?自己の身を保全しなくていいのか?闇の力に安易にその身体を任せていいのか?

 僕らの未来は、こんなところからはじまるのか?


 とりあえず、そのようなところだ、と答えておくことから、話をはじめよう。

まず、闇がある。次いで、小さな灯り。それから冒頭の、静かに響き渡る“カタカタカタ…”という音。

 僕らは、いつでもこの出発点に戻ってくるだろう。

半永久的に? 分からない。

 ただ一つ言えることは、この出発点への遡及力は、そんじゅうそこらの方法では抜け出せないということだ。

 脱出とは、自分のすべてを賭けなければならない―そうでなければ、死をも甘受する―ものなのだ。そうではなかったか、インディー・ジョーンズの冒険シリーズだって、ソウだって、いつも「そこからの脱出」には、自分の生死までもを掛け金とする壮絶な闘いが繰り広げられるということに。

 僕たちは、いつまでたっても甘いのだ。

 そして、現実は残念なことに、いつまでたってもしぶといのだ。


 さて、どこまで行こうか?



 カタカタカタ…。

恵は、熱心に自分のキーボードを叩いていた。

 5時間目、パソコン室。室内は、クーラーが実によく効いていて、とても気持ち良かった。

 今年はものすごい暑さだという。四国では、数年ぶりの日照りに苦しんで、水不足という深刻な状況が起こっているみたいだ。ここ神戸でも、前例がないほどの日照に悩まされていた。

 恵は、レポートのための参考文献を調べていた。課題は、「興味のある動物の生態」。なんとなく家に1匹飼っているということで、カメにした。一口にカメといっても、調べてみたらカメにも何種類ものカメがいて、それこそガラパゴス・ゾウガメみたいな巨大なものから、日本のミドリガメみたいなとても小さなものまである。カメの生態を広く調べ上げて、原稿用紙10枚にまとめて発表する、というのが半学期の学校の課題だった。


 恵は、中学一年生で、初めての夏休みを迎えようとしている。まだ、小学校を卒業したての時期で、同期の友達も恵も子供っぽい要素から離れていない。ずっと地元の神戸で過ごしており、ただ市内を何回か転校している。そのため、中学校では別れた友達と再会するというパターンが非常に多く、それまでにない非常に満ち足りた交友関係を築いている。

 恵は人当りの良さを持ち合わせており、友達にも男女の区別が特にない。男勝りかというとそういうわけでもなく、たとえば彼女の容貌はわりと美しい。いわゆる、年齢を経るにつれ美しさを増すタイプといったものの様子が見てとれる。頭はショート・ヘアーで、地毛が有しているこげちゃ色が、光に照らされると濃く現れる。くっきりした瞳を持っていて、チャーミングな二重瞼が印象的だ。だけど鼻と口元が子供っぽくて、全体としてはまだ童顔のイメージが大きい。背は小柄で、非常に健康的な肌の色をしている。


 それまでコンピュータ―その頃は、パソコンという語がまだ浸透していなくて、とても容積の大きいハード・ウェアを要していた、だからコンピュータと形容するのがぴったりだ―に近づけていた目を、すっとその画面から引き離して、隣を見た。この、情報の時間に使うコンピュータが隣席ということで仲良くなった友達は、どうやら鶴のことを調べているらしい。が、彼のコンピュータを覗いてみると、作業に飽きたのか、ゲームをしている。

 「よっ、○○くん。 何してるの?」

 「あぁ、これ? “△△△”っていうホームページ。ほら、ゲームばかり集めているんだ。」

 「へぇぇ…。すごい数。おもしろそう。」

 「飽きたらよくこのホームページのゲームで遊んでいるんだ。」

彼はそう言って、口元をニヤリとさせた。

 恵もちょっと暇になったな、と思って、彼から教えてもらったそのゲーム・サイトにアクセスした。ほんの気晴らしに。


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