猫はそうしてやってきた(偽)
「いつから一緒にいるの?」
木陰でぼんやりを続行してると、日差しの代わりに影と声が落ちてきた。仁王立ちの彼女だった。
「そろそろ十八年?」
「……ごめん。聞き方間違えた。二人のなれそめは?」
「船が連れてきたんだよ」
あのころは年に一度は戻ってきた。
黒猫を見つけた時は「これだけ盛大に塩水かぶっちゃ復活の見込み無いよねえ」と言ったものだ。
が、船にぶおーと怒られたので、ものは試しに洗濯ばさみで吊してみた。
ふぎゃーと復活した黒猫には盛大に引っかかれた。
「以来、同じ場所に居座ってる感じ」
「あんたの事だからろくに話しかけたりもしなかったんでしょうねえ」
「お互い非干渉だったねえ。引っかかれたりはたかれたりする以外」
「……案外手を出してたんだ」
そうかもしれない。
なんかむずがゆくて頬を掻いた。
「向こうも時々は話しかけてきたりしたし。お互いそれなりに暇つぶしの相手にはなったんじゃないかなあ」
「あんたにとって、あいつってどういうやつ?」
「口が悪いよね」
「それから?」
「なつかない」
「それから?」
「時々怖いことを言う」
「……わたし、あんたらがなんで相棒やってられるのかよくわからないわ」
彼女は頭を抱えた。
「相棒ねえ」
「違うの? それだけ一緒にいながら?」
じろりと向けられた目。何か、粘っこいものの混じった光が混じっている気がする。
「違うと思うよ。お互いに都合よくはあったけど、お互い必要ってわけじゃなかったし」
僕も黒猫も、一人でいようとすればいられるだろう。それでもいいやと、何事も諦められるから。
……違うか。
僕もあいつも、自分の思ってる一つの事以外は切り捨てられるってだけなのだ。
切り捨てられないものはなんだろう。
考えてみる。すぐに見つかった。それは習慣の中にある。
たとえばつれない態度。誰かにしかなつかないと決めているような頑なさ。
何度も海辺を散歩する黒猫。何かを探しているように。
……あいつにとって、自分を運んできた船がそこで朽ち果てようとする景色はどんな風に写ったんだろう。
もうあいつが、何かを新たに運んでくる事はない。その事実をどう捉えたのか。
一つの夢が終焉を迎えた。
それは毒のように、病気のように、この島に広まっていく気がする。
「あいつは何を求めてたんだろうなあ」
だから気になる。
どうせいつかは終わる関係。いつかは果てる体。
そこに何を宿していたのかを。
「あんた、そんなに積極的だったっけ?」
彼女は眉を持ち上げる。
僕はスルー。理由はわかりきっていたからだ。
***
夜になって、じっちゃんは言った。
「駄目だ。直せない」




