理由探求
車に揺られて一時間。海から離れ、島の内側へ入ってく。このあたりは廃墟風景もひと段落。小鳥のさえずりが耳を潤す緑の光景に満ちている。
聞きかじりの思い出がある。
ここはかつて最後の人類が暮らした場所。
会った事はないけれど、僕を作ったのも彼女だそうだ。
今はこの森のどこかで眠っている。
享年三百十四歳。立派なサイボーグだった。
そんな彼女は、僕以外にもたくさんの機械を生み出した。
これから訪ねる「じっちゃん」もその一つである。
***
「帰れ」
ログハウスから出てきたやつは化石寸前の顔をしていた。
「帰らないからどうにしてよ」
嵐のような押し問答はシグレに一任して、僕は木陰で一休み。膝を伸ばして座り込み、ぽけっとする。すると黒猫が膝の上にやってきて、あくびをしながら丸くなった。
「眠いの?」
「ここは光が届かないからねえ」
「ああ。発電」
しかし僕達が発生させている電磁波で多少は発電できるはず。死ぬ事はあるまい。
「そういえば、じっちゃんって誰か知ってる?」
「知ってるよ」黒猫はこちらを見る。「初めて?」
「うん。会った事もない。怖そうな感じだね」
「大した奴じゃない。……ああ。お前にどこか似てるかもねえ」
「どんなところが?」
「引きこもってるくせに、誰かが訪ねてくるのを待ってるところ」
「ははあ。面倒くさそうな奴だね」
あれ。黒猫がなんか小さくなった。
***
ざくざくと草を踏みつけながら、じっちゃんがやってきた。小太りの小男をそのまま拡大したみたいな姿だった。
「お前は誰だ」
じっちゃんは聞いた。僕は肩をすくめた。
「こいつの飼い主」
「なんの酔狂だ。こいつは人以外になついたりするやつじゃねえ」
「あ。人にはなついてたんだ。やっぱり好きだったんだねえ」
背中をなでると、尻尾で叩かれた。じっちゃんはそれを不思議そうに見ている。
「お前もそいつを直したいのか?」
「あはは。そうね」
「嘘だな」
「うん。嘘」
言葉を交わせばすぐにわかる。こいつは僕と同類。
だから、自分の気持ちなんてわかっちゃいない。
「正直、俺は嫌だ」
じっちゃんは腰を下ろしながら言った。
「生きたくもない奴を生かすのはおもしろくない」
「だろうね」
「お前は何でそいつと関わってるんだ?」
「まだ生きてるからでしょう」
今まで生きてきた。そして今も生きている。それだけが僕がこの黒猫について知っていること。
愛着はある。いなくなったらきっと寂しいだろう。もう二度と動かない錆付いた船を6思い出す。その絵は、ホームで丸くなったままぴくりともしない黒猫に変わる。僕はずっとそれを見下ろすのか。
想像すると胸が痛んだ。
けれどそれだけ。
だからなんなのと思ってしまえば、僕の気持ちはあっと言う間に見えなくなる。空気みたいなものだ。
それに比べれば、じっちゃんはちょっと不純かな。
「嫌だって言うけど、なんで嫌になったの?」
じっちゃんは顔をしかめた。
僕は笑った。
「こうあってほしいという思いがあった。……もしくは、今でもそれがある。そうでなきゃ、嫌だなんて言えないよ」
そしてこの黒猫も。
……捨てられて、こんなところに流れ着いても死ぬことを選ばない。
漫然と時が過ぎるに任せて、判断を先へ先へと後延ばしにしているだけ。
でもそれは、迷う夢があるということ。
駅のホームから送り出した、一体の機械を思いだす。
恋を探し続ける彼女。
人を知り。人に捨てられ。盛大な失恋に派手に傷ついて、今でもずるずる引きずって、こんなところに集まったまま未だにさまよい続けている。
この島に集まった者はみんなそう。
人間を知らない、僕以外。
だから。
僕もそれを、知りたいと思ったのだ。
「どうしても嫌ならそれでもいいよ。でもその代わり、嫌な理由を教えてもらうまで僕はしつこくつきまとう」
どっちにする?
じっちゃんはため息をついて、黒猫を抱えていった。
……こういうのも、北風と太陽っていうのかな?




