黒猫の傷
「ごめん、ばっちゃん。わたしにゃ無理。パーツ足りないもん」
テーブルでだれていた黒猫に、彼女は言った。
黒猫はのんきにあくびをして「我が輩も年だしねえ」などと言っている。
「どれくらい保ちそう?」僕は聞いた。
「わっかんね。蓄電の代用ができればねえ。んー」
「いや、それ質問に答えてないけど」
「どうしたらいいのかなあ」
「あー……」
彼女は口をへの時に曲げている。諦めるつもりはないらしい。
まあ……ここが、僕と徹底的に違うところだよな。
僕は黒猫を見た。黒猫もこちらを見る。
「無理なら無理でいいんだよ」黒猫は言った。
「うっせー。無理ってのは未来なのよっ。未来なんかわたしが知るかっ」
……不思議だなあ。一つ一つの要素は全部正しいはずなのに、なんでつなぎあわせるとこうも理不尽に聞こえるのか。
「あっ。そうだ! じっちゃんなら何とかできるかも」
「なんとかなりそうなの?」
「わかんねー」
けど、その割に、答える声は明るかった。
***
ということで、じっちゃんに会いに行く事になった。じっちゃんが何者なのか、なにをどうするから何とかなるのか、まったく想像がつかないが、気づけば発車していたのだからしょうがない。
鼻歌こぼしてハンドル握る彼女、は放置して、僕と黒猫はキャンピングカーの整備室部分の床にぺったんと座ってる。整備道具がぎっちり詰まっているせいでスペースは狭い。車が上下する度、どこかがパレード状態になった。
「お前にしては強硬な手をとったね」
猫が言った。何のこと、ととぼけてみる。
「ふん。シグレを呼んだのお前だろう? だいたい、半日もかけてパーツ探してるところをみてりゃ想像がつくわい」
それは単に、最近ずーっと寝てばっかりで相手してくれないつれない相棒の代わりの暇を探してただけです。わざとらしすぎたので言うのはやめた。
「僕も最近調子悪かったからね」
「お前は滅びるに任せるタイプだろう。わたしとおんなじにね」
「そうねえ」
「我が輩に生きてほしいのかい?」
僕は答えず、質問で返す。
「饒舌だね。何を話したいの?」
黒猫はしっぽをふらりと揺らした。
「シグレは苦手なんだよ。まるで人間みたいだ」
「人間ってあんなだったの?」
……うーん。機械達はなんであんなややこしいのが好きだったんだけう。正気を失ってたとか?
黒猫は笑った。
「恋は盲目って言葉がある。まさにそれだったんだろうさ」
夜の駅ですれ違ったあのロボットを思い出した。
彼女は確かに、盲目と言えるほど視野が狭かった。
「でも、人間みたいなら、好きなんじゃないの? 好きだったんでしょう?」
「好きだったさ。けど、向こうにとってはそれほどでも無かったんだよ」
「……ああ」
人類に取り残された事。
それは黒猫にとっては未だ癒えていない、盛大な傷跡なのか。
……こっそりと、心の中だけで笑みをこぼす。
だからこそ、まだまだ黒猫に生きて欲しいんだよ。




