恋が空に登ってく
滝のような雨に叩かれながら竜は徐々に空へ上り始めた。上空百メートルまで飛翔したところで大規模重力場を展開。体を斜めに傾げつつもじりじりと天に昇っていく。奇しくも、その姿は亀に似ていた。
とはいえそれは、どんな荒天にもくじけない、力強い亀だった。
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「詐欺だ」
黒猫は膝の上で言った。床にへたりこんでいる僕は溜息をつくのがやっとだ。
ちょっと、立てない。というか、立ちたくない。しばらくは。後ろでシグレがさっきよりも一段と大きな声で指示をとばしてるけど落ち着けとか言う余裕はない。
「詐欺って……」
「お前はまたわたし達に夢を見せて利用したんだ。まるで人間のようにね」
僕達は道具だ。心があっても道具として生まれたことは変わらない。だから道具として使われたいという気持ちはどこまでいっても残ってる。
それを利用したと言われれば、その通りだと言うしかない。
「お前がいなくなったらどうするつもりなんだい? あるいは、あいつの夢が叶ってしまったら」
黒猫は尻尾を揺らすのをやめた。声にはどこか真剣な響きがある。
……目的のために作られたモノは、目的を果たした後はどうすればいいのか。
僕はその答えを、見せたはずなんだけどな。
「今度は自分の夢に周りを巻き込んでみなよ」
「夢なんかどこにあるんだい」
「夢しか見てなかったじゃない」
僕には思い描けないような夢を。ずっとずっと、あなたたちは。
「あのさ、今まさにまきこんでおいてこういうのは何だけど、いい加減、誰かの夢に乗っかるだけの生き方からは卒業してもいいと思うよ」
「お前は違うのかい。女の尻を追いかけてるくせに」
「誰かに頼まれたわけじゃないから。僕が勝手に追いかけたくて追いかけてるし、手伝いたくて手伝ってる。だからこれは僕の夢だよ。ただそこに他者がいるってだけでさ」
黒猫の頭をなでて僕は笑った。
「人が好きなのはいいよ。また手を取りたいと思うのもね。それを諦めたりする必要はないと思う。もし手を取りたいなら、今からだって宇宙に行って追いかけたっていいと思うよ」
「夢物語だね」
「だから、その夢をみようよ、と言ってるんだよ。というより、見ちゃってるんだから、それを否定しなくてもいいと思うんだよ」
結局力不足かもしれない。自分だけでは声をかけることしかできないかもしれない。その現実は認めよう。僕では夢に手が届かない。
だからつかむことにした。手を伸ばすだけでは手が届かなくても、近づくことくらいはできる。そのあとはそこから考えよう。死ぬまで走り続けると無意識に決めているのが生命の本質だ。
まあ、もっと詩的な言い方をするなら。
それがきっと、彼女の語りたい恋なのだ。
「わたししゃあもう人間なんてどうでもいいけどね」
「あれ、そうだったの?」
「ああ。あんたは今楽しいかい?」
「たぶん」
黒猫は髭をぴんと震わせた。
「ならいいさ」
黒猫は膝から降りる。
爆音。




