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海里の果て  作者: 黒霧
鯉の滝登り
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竜の心

「竜の仮想人格は作らない」


 いつかの夜。彼はわたしにそう言った。


「土台無理な話なんだ。一つの共通の母胎から生まれたのならともかく、全員が別々の出自で、もう何百年もスタンドアローンで動いてる。それが今更一つの大規模ネットワークに接続して一つの仮想人格であるように振る舞わせるなんて」


「けれどそれができなくては、竜は飛びません」


「うん。だからね、ネットワークに接続するのは諦める」


 わたしが頷くと、彼はちょっと肩を落とした。


「気づいてた?」

「その結論しかありえません。」

「――かなわないなあ」

「けれどそれは不可能でしょう。彼らは与えられた役割以上のことはできません。与えるまでは、動かない」


 それがわたしが、長らくこの島を巡って得た結論だった。

 そのときの彼は、「そうなんだよね……」と呟いて天を仰いでいた。


「まさかわたしが引き合いに出されるとは」


 ……まあ、それもいいかもしれない。


 わたしはこっそり作った端末で、マザーフレームにダイレクトに接続する。計算負荷が急上昇する。沈黙を守っていた大部分の処理系が光を放つ。艦内全ての情報を汲み上げていく。


/*/


 誰かが言った。

「告白だとっ!?」


 誰かが言った。

「なんでこんなあり得ないタイミングでやらかすかのぉ」


 誰かが言った。

「まるで人間みたいなやつだね」


 誰もが言った。

「じゃあ、仕方ないな!」


/*/


 沈みかけた竜が、体を起こした。

 咆哮。体が浮く。わずか、五メートル。


/*/


 艦内制御から自動処理が消える。操作、フルマニュアル。これより大竜エクはデバッグモードで運行。全制御を艦内CBが執り行う。


 なんてことはない。ようは大昔の人間と同じだ。

 ネットワークなどない。人格同期など不要。大規模な並列処理レイヤーも統一されたプロトコルも存在しない。


 お互いが理解できないくらいでは何の問題もないというように、彼らは手を取り合い動き出す。

 巨大な竜がゆっくりと首をもたげ、空に飛び立つ。


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