竜の心
「竜の仮想人格は作らない」
いつかの夜。彼はわたしにそう言った。
「土台無理な話なんだ。一つの共通の母胎から生まれたのならともかく、全員が別々の出自で、もう何百年もスタンドアローンで動いてる。それが今更一つの大規模ネットワークに接続して一つの仮想人格であるように振る舞わせるなんて」
「けれどそれができなくては、竜は飛びません」
「うん。だからね、ネットワークに接続するのは諦める」
わたしが頷くと、彼はちょっと肩を落とした。
「気づいてた?」
「その結論しかありえません。」
「――かなわないなあ」
「けれどそれは不可能でしょう。彼らは与えられた役割以上のことはできません。与えるまでは、動かない」
それがわたしが、長らくこの島を巡って得た結論だった。
そのときの彼は、「そうなんだよね……」と呟いて天を仰いでいた。
「まさかわたしが引き合いに出されるとは」
……まあ、それもいいかもしれない。
わたしはこっそり作った端末で、マザーフレームにダイレクトに接続する。計算負荷が急上昇する。沈黙を守っていた大部分の処理系が光を放つ。艦内全ての情報を汲み上げていく。
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誰かが言った。
「告白だとっ!?」
誰かが言った。
「なんでこんなあり得ないタイミングでやらかすかのぉ」
誰かが言った。
「まるで人間みたいなやつだね」
誰もが言った。
「じゃあ、仕方ないな!」
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沈みかけた竜が、体を起こした。
咆哮。体が浮く。わずか、五メートル。
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艦内制御から自動処理が消える。操作、フルマニュアル。これより大竜エクはデバッグモードで運行。全制御を艦内CBが執り行う。
なんてことはない。ようは大昔の人間と同じだ。
ネットワークなどない。人格同期など不要。大規模な並列処理レイヤーも統一されたプロトコルも存在しない。
お互いが理解できないくらいでは何の問題もないというように、彼らは手を取り合い動き出す。
巨大な竜がゆっくりと首をもたげ、空に飛び立つ。




