道具の道具
ロータリーではキャンピングカーが待っていた。声をかけても返事は無い。巨大で複雑な機械ほど仮想人格の制御が必須になっていった人類末期だが、こいつはそれを積んでいない。しかしてその理由は、
「いや、わたしプログラミングできないし」
という残念な設計者にある。
テーブルで僕の腕を解体していた彼女は頬杖をついた。じろりと、怪しむように僕を見る。
「突然何?」
「何が」
「あんたが他の奴に興味持つなんてさー」
「言われてみれば。……その点僕達って正反対だね」
彼女は島で数少ない整備士だ。島の住民すべて機械である事を考えれば、その彼女が関わる数は途方もない。一方で僕は、電車も滅多に来やしない廃墟寸前の駅で暇をしているだけ。逆というのなら、これ以上の逆も無い。
「なんで整備士始めたの?」
「んー、境遇? わたしのモデル人格がそうだったらしいし、家には結構な整備道具があったし、整備についてはよく知らなかったし」
「最後のはどういう因果?」
「素質があるのにできないって悔しくない?」
僕は首を傾げた。
「できたとこでどうするの、それ」
「ばっかねぇ。できることに意味なんか無いのよ。やりたいことやってるっていう充実に価値があるんじゃない」
がしゃん、と背もたれが悲鳴をあげる。彼女は憂鬱そうに息をついた。
「……だから、人がいなくなった途端、みーんな何していいかわかんなくなっちゃったんだろうなぁ」
彼女は透徹した目で僕を見た。
「あんたもそうだったんじゃないの?」
……しかし、申し訳ないがそれは誤解だ。
「僕はその後の生まれだし」
「えっ。そうだったの? うわー。じゃあ同世代?」
「君よりは年上だよ」
「あんたみたいなのができちゃったからわたしはこうなのねえ」
「いやー。なんだろう。馬鹿にしてる?」
「おお。賢くなったのお、旧世代の分際で」
口にする端から言ってる事が変わってるよ……。
そう指摘すると、彼女は馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「だーかーら、それでいいの。過去も未来もここにゃないのよ。わたしは今やりたい事だったりできることだったりをするだけよ。いつまでもね」
本当、刹那的なやつだな。同種のシステムつんでるとは思えないぞ。
まあでも、口にする感想はもう少しまろやかにすることにした。
「……整備なんて、いろんな奴とかかわるだろうに。もっといろいろ考えがあるのかと思った」
するとそのときだけ、彼女はちょっと遠い目をした。
「整備士に何言ってんの。わたしが道具である事を疑ったら、なんにもできやしないでしょう?」




