竜の夢を見るモノ達
「あーもう駄目だ」
もう一度散歩に出ることにした。黒猫を子供たちの生け贄に捧げて店を出る。にぎゃーという声を背中にしながら、緑色のドームの下を中央塔へ向かっていく。
舗装されてない土の道はそこかしこが下草に覆われて、足を踏み出せばくしゃりと柔らかな感触がする。ここを通る都度僕は歩調を落としてしまうのは、それを頼みたいからだろうか。
しばらく歩いていくと、木陰に腰を下ろした男がいた。いつかも確か、座りこんでいたっけ。
「なんだ。お前か」
門番は口を斜めにした。眉間のしわはいかにも不機嫌の象徴に思えるけど、別に腹を立てているわけじゃない。彼はいつもこんなんだ。
「暇なの?」
「お前が言うか」
「僕は失敗続きだよ」
未だに竜の仮想人格はめどがつかない。このままでは僕だけ何もしていなかったみたいでちょっと恥ずかしい。
「竜か」門番は視線を空に向ける。「どんなやつなんだろうな」
「あなたも知らないんだ」
「ああ」
「なのにどうして協力してくれたの?」
「暇だったからさ」
門番は笑った。僕を見る目に光が灯る。
「何もしたくないわけじゃない。けど別に、何かすることなんてない。そうだろ? 今生きてるやつらはみんなさ」
「そうかもね」
だからできることをしたいことだと思いこむか、かつてしていたことを懐かしむだけの緩やかな停滞がこの島を覆った。僕はそれをどうこうする気はなかった。きっと彼女にも、なかっただろう。
じゃあなんでこんなことになったんだろう。
僕は木の葉を蹴り上げた。
「おお。どうした」
「これが終わったら何する?」
「別に考えはないなあ」
「一歩も進んでないみたいな気がしてくるね」
「実際、俺たちが進むなんて可能なのか?」門番は聞いた。「俺達は道具だ」
月の彼女を想像する。そしてシグレのことを。
「また暇な日々に戻りたい?」
「そりゃあ……嫌だな」
「その不合理があるならなんとかなるよ」
現在以上に求めるものがなくなった時、僕たちは停滞する。
だけど、本当に求めるものがなくなったら、そもそも存在する必要もない。永遠に眠ればいいのだから。
それをせずに、今も停滞したままでいるということは。
「今までやってなかったこともやってみたら?」
「なんだよ、それ」
「僕はあなたじゃないよ?」
笑って、門番の横を抜けていく。答えを教えて喜ぶタイプじゃないというのは、話していれば大体わかる。
今、竜の建造に関わっているCBの大部分は門番みたいな感覚だろう。あるいはもっと忙しい施設建造グループなんかは、考える暇もないかもしれないけど。
眠らずに起きていた三千ものCBが竜の建造に関わっている。仙人は流石目というだけあってその全てに注意を払っている。その情報を通じて開発指揮をとっているのがシグレ、という形だ。
竜という夢に、彼らは向かってる。
けれどふと考える。この夢の果てには何があるのだろう。
また、海里の果てにあるこの島へと戻ってきてしまうのか。
その可能性もある。
――ああ、だけどそれなら。
「いっそなぁ」
……イメージはある。やり方をうまく言葉にできないだけで。
でもそれじゃあ表現できない。
僕はアイデアをくしゃくしゃに丸めて意識の隅に投げ捨てた。




