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海里の果て  作者: 黒霧
鯉の滝登り
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竜を目指して

 竜の建造が始まって一年が経つ。

 初期設計はシグレがやった。それに対して港の仙人が助言し、整備工や多くのCBが好き勝手に「畑がほしい」とか「バッティングセンターがほしい」と言い出し初めて、なんとかして一つの施設にまとめていくのが僕。設計図の第一版ができたのは二週間後。シミュレーションで空中分解して再設計にまた二週間。そうこうしているうちにブロックごとに確定した部分から具体的な図面を起こして再生プラントでパーツの生産を開始。組立を行った。


 そして現在。島の中央部は夏の雨に濡れた下草のような深い色の壁に覆われている。竜の施設を覆うドームだ。胴体下部は島をそのまま改造した。外郭はすでに完成したと言っていい。シールドシステムが機能すれば大気圏外からの垂直落下でも耐え抜ける恐るべき強度を備えている。


 とはいえ中身はまだまだだ。マザーフレームや再処理工場の移設によってなんとか形を整えてはいるが、肝心のものが二つ足りない。


 一つはジェネレータ。ようは心臓だ。発電量が足りず、このままでは飛び立つことは難しい。また時間切れで島が崩れ海に沈んでしまったら、二度と浮上できないだろう。これは島中のCBの知恵を結集して解決を試みている。その中には全員で自転車をこぐという恐るべき発案もあったがそれは僕が握りつぶした。いくら何でもありえない。


 こっちはまあ、なんとかなるだろう。そのうち。

 最悪の場合死体発掘だ。海中で永遠の眠りに入った竜からジェネレータを持ってくるという手がある。


 もう一つが致命的で、こればっかりは今のところ打つ手がない。

 竜用の仮想人格が、まだ、どこにもなかったのだ。


/*/


「や。ただいま」

「おけーりー」

「お帰りでしょ」


 ドーム内の居住区に入る。以前は森奥の村だったこの場所は、風景をそっくりそのまま残してある。

 こういうことばっかりやってるから巨大化してジェネレータも規格外が必要になる。

 けどそれに文句を言うのは筋違いだろう。完成させることだけが目的じゃない。


 駄菓子屋の中に入ると子供のCBが一斉にやってきた。十人はいるだろう。それが腰や足にまとわりついてきて、有り体に言って、動けなくなった。


「あー。ちょっと退いて」

「にーちゃんあそぼーぜ」

「よしよし高い高い」


 首根っこをつかんで放り投げた。げらげら笑いながら空中で三回転を決めて頭から落下する少年。

 何故受け身をとらない。

「うははは!」

 まあ無事だからいいか。


「マリーナはどう?」

「わたしがどうかしました?」


 名前を呼ぶと、奥から一人の少女が現れた。ふわふわした髪の柔らかそうな見かけなのに、表情の変化は氷並みに固定力だ。未だに笑った所を見たことない。


 彼女は僕の前で立ち止まると、じっと見上げてきた。


「調子はどう?」僕は聞いた。

「目的は達成できていないかと」

「そうかあ。難しいねえ」


 僕は顎をなでた。ここにいる子供たちは全員竜になれなかったCBだ。まあかわいいのでそれはそれでいいんだけど。


「思えば賑やかになったもんだ」

「騒がしいってんだよ、こういうのは」

 ひょいと肩に飛び乗る黒い影。黒猫はこしょこしょと前足で顔を洗う。

「ああもう面倒ったらない。尻尾をつかもうとするんじゃないっ」

「ずいぶん楽しそうだけど」

「お前の目は節穴だね」


 僕は曖昧に笑った。黒猫が溜息をつく。


「竜はどうなんだい」

「ハード面はまあ、なんとかすると思う」

「全員直列で発電とかまた言い出すんじゃないだろうね」

「それはない。足りないって計算で出たから」

「……まあ却下されたならいいんだよ」


 黒猫は顔を背けた。尻尾がへにゃっと垂れる。設計班は常識がない、とぶつくさ文句を呟いている。

 しばらく黙って黒猫の背を撫でた。

 五分ほどで復活する黒猫。


「ソフトはどうなんだい」

「なかなかねえ」


 僕は床に座りながら黒猫の顎を掻く。猫はにゃー言いながら転がった。話題が途切れる。

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