線路の果てへ
ベンチは冷たく、堅いが、座るときしむ音がした。少しへこんだ気がする。
軽い材質なんだろう。
空には日差しを雲が、絨毯のように広がっている。歩けたら楽しそうだ。
人が空を跳び始めた理由だって、そんなものなのかもしれない。
「何を考えているんだい」
「さあ。なんだろうね」
膝で丸くなっている黒猫をなでた。ゆらゆらと尻尾を振って、腕に絡めてきた。手首でブレスレットみたいになった黒い尻尾を見て、動きを止める。なでて欲しくないらしい。
顔をあげる。正面には堆く積まれた廃材の山だ。思えば、この廃材はどこから運ばれてきたものなんだろう。島を作るだけなら廃材を山と積む必然性はなかった。
「……ははっ」
考えれば、何事にだって理由をつける事ができる。
理由を付ける事が、考える事だから。
それなら。ものごとに理由があるのではなく、理由という見方をするものがいるという事だろう。
最初は、目指した目的。
経過は、歩いていく理由。
最後は、残された存在。
でも、目的をなくしても存在はあり続ける。
けれど理由という形で整えた自分は、目的をなくした事になじめない。
それが残骸としての自分を生む。
考え事がまとまらない。頭を振っていると、遠くから物音が聞こえてきた。黒猫と一緒に顔を傾ける。
そこに見えたのは、赤く錆びていたバス停の看板。その向こうからやってくるのはさび付いた四角いバスだ。
バスは石つぶてをぱちぱちと弾いて、バス停の前に停車した。
「…………ああ、久しぶり」
「久しぶりですねえ。最近、駅で見ませんでしたからね。乗ります?」
「うん。駅まで送ってくれる?」
「ご乗車ありがとうございます」
エアーをはいて車体を下におろす。ドアがきしみながら開いた。
僕はベンチから立ち上がる。黒猫は肩に登ってきた。バスに乗る。
バスはゆっくりと走り出した。
「あなたが駅の外にでるとは思ってませんでしたよ」
バスは言った。シートに座りながら僕は答える。
「僕も思ってなかった」
「心変わりですか。さいころでも振ったのですか?」
「……」
心変わりの理由を求めるなら。やっぱりそれは。
「ううん」
ずいぶん長い事間をおいてから僕は答えた。窓から海辺を見なながら。
夕日に、赤く塗れている。僕は目を細めた。
「降参したたけだよ。単に」
いつまでそうしているんだか。そう呟いたのは僕。
いつまでそうしているんだか。そう思ったのも僕。
でもそれは、彼女に向けた言葉だったのだろうか?
『お前は滅びるに任せるタイプだろう。わたしと同じにね』
そう言った黒猫を、僕は無理矢理助けた。
そして黒猫は今は僕を理由にしている。
「ねえ。あなたは何故今も動いているの」
「それはまあ、まだ動くからですよ」
「……」
「終わりたいと思えば、終われます。だから、終わるのにも理由がいるんですよ。する事がなくなったくらいでは、終わったりしないんです」
「……ああ。それなら」
窓の外に、黒いものが見えた。
墓標のようにそびえ立つ、黒く大きな船の影。
始まりの駅は目の前だ。




