命の作り方
考えてみれば当たり前の事だった。
最後の人類がいたのだ。つまり、人間が生活可能なだけの環境維持システムがあったはず。そして竜とは移民船。すなわちこの島の機能はそのまま竜に近似する。
とはいえこれだけのつぎはぎだ。果たしてどれだけのものが今でも使えるかというとかなり難しいものがあるが、緑が生きていることから植生プラントや水源プラントは生きているのは間違いない。明らかに、海のただ中の島にありえない種類の樹木があるし。
まあなんにしても、この島をバラバラにして再構築すれば竜はできるだろう。
……シグレはそれで満足するかな、というのは一つ不安だったけど。
「思ったより大規模になりそうね」
と、地上に降りたシグレは楽しそうに笑うだけだった。
……まあ、不満がないならそれでいい。
「どうしたんだい、不満顔で」
黒猫に呼びかけられて僕は足下に目を向けた。
しゃがみ込んだ少女の頭に黒猫が乗っていた。この村の少女だ。
「にーちゃん怖い顔してたよ?」
「そうかもねえ」
「うん。そーだよ」
適当に答えながら再び思考の中に戻っていく。
考えてみれば、ここしばらく動き回ってばかりで考える時間が減っていた気がする。データ断片を整理したらずいぶんとあちこちに散らばっていた。頭の中は割ったガラスを放置していたような有様だった。
「空を飛んでる間は気持ちよさそうだったのにねぇ」
「あ、わたしも空と飛びたいっ」
気になることがある。二つ。
一つは竜の記憶。アルタールの記憶。これが故意に忘れさせられている事は間違いない。
もう一つは……この島の正体。
上空から見て明らかになった。この島は竜の機能を持っている。
それ自体はおかしい事じゃない。ただし竜の記憶がないという事と照らし合わせて考えると、奇妙な絵柄が浮かんでくる気がする。
……少し、おもしろくない。
誰かの手のひらの上で踊らされている。
……うん。何度考えてもそういう結論に至る。
「仕組まれてるよね、これは」
「なんの事だい」
「なんのことだい?」
二人揃って首をかしげた。猫が転げ落ちた。
「アルタール」
竜へ至りと、彼女の墓碑には残されていた。
彼女が竜を焦点にあわせていた事は間違いない。
何かを考えて、何かを狙って。
「また目的のために作る、か」
それはループだ。黒猫が捨てられる以前への。
「…………」
望まれて、助けるために生まれて、そう在る事に疑いなんかなかった日々。
夢に見る理想郷のように、彼らはいつもその日々を口にする。
僕の知らない、その頃の事を。
「…………まるで、」
それは恋人を思うような。
僕は立ち上がった。黒猫が足下によってくる。
「どうしたんだい」
「ううん、ちょっと」
「久しぶりに見たよ、その顔」黒猫は尻尾を振った。
「久しぶり?」
「ああ。駅にいた時みたいな顔してたよ」
「……」
僕は苦笑した。隠しきれないな。
隠すことにした。
「これから作った竜は、どう生きたらいいんだろうね」
「そんな事を考えていたのかい」
「同じ事に悩んでたのに?」
「他の奴の事なんてどうでもいいよ」
「シンプルだね」
たぶん、シグレも同じくらい。他のみんなも。
僕も?
……僕もかもしれない。
「でも、」
歩き出す足音で言葉を隠した。
なんて続けようとしたのかを、僕は果たして理解していたのだろうか。




