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海里の果て  作者: 黒霧
恋の島
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関係の根幹

 ロボット三原則という物があったとか。時の偉大なる科学者が定めたロボットに対して求められる三つの条件である。ちなみに猫は「科学者じゃなくて物書きだ」と言っていた。

 さすがに現実では三原則よりも細緻な法が施された。


 その中の一つに「ロボットはロボットを作り出してはならない」というのがある。このロボットとは仮想人格を搭載したもののことだ。

 なぜロボットがロボットを作ってはいけないか。

 人がロボットを完璧に管理するためだ。人が認識していないロボットが現れないようにするために、かのごとき制約が生み出されたのである。ある種の反乱抑止機能だったらしい。


 まあ。

 今じゃもう、守ってるやつなんていないけど。


 ***


「よーよー。あ、逃げるな」


 景気の良さそうな声をあげて近づいてくる、人型ロボット。人間だったら二十歳くらいの女性型。笑顔といい、光を浴びた長い黒髪といい、輝いているところばっかりの女だ。


「ははは。こいつめー。全然顔見せねーで会うなり逃げるとか。自壊でもする気か」

「今まさに壊されそうだよ」


 ヘッドロックをかけられながら僕はぼやいた。


「大丈夫。壊しても直したげるから」

「完璧な循環だけど何もかもが間違ってるよ」


 飽きたか、彼女はぽいと僕の頭を放した。首をねじって、ホームを見回す。

 彼女は小首を傾げた。


「猫は?」

「最近不調でねぇ」

「看たげよっか」

「あいつがいいって言ったらね。ま、パーツがあるかちょっとわからないんだけど」

「ふーん。でもこの間船が帰ってきてたでしょう? 探したんじゃ?」


 ……なんで先読みされるかなあ。

 頬を掻きながら僕は答えた。


「微妙」

「そっかぁ……。困ったね」


 彼女はそう言って、身じろぎ一つしない船を一瞥。

 まともな部品工場なんてもう無いのに、などとぼやいている。


「さて。猫の話に流されかけたけど、あんたのメンテナンス期間もとーっくに過ぎてるんだからね」


 ずびしと指を突きつけてくる彼女は、僕のメンテナンサーである。

 かつて僕たちにかけられた制約はプログラム上に確かに残っている。

 けれど、だからといって、抜け道が無いわけじゃない。

 たとえば既存物の修理扱いにするとか、電源を落とした上でただの物を改造しているだけということにするとか。


 結局のところ。(ルール)というのはあくまで(ルール)

 僕たちは人と共に在りたかったから人の法を守っていただけで、その法が完璧だったわけじゃない。

 そこを勘違いしなければ……僕たちも、つれていってもらえたのかなあ、彼方への旅立ちに。


 なとと考えながらも、口では別のことを話していたり。


「僕は止まったらそれまででいいんだけど」

「それじゃあわたしが嫌なのよ。だいたい後味悪いじゃない」

「じゃあしょうがないかあ」

「……納得いかねー。なんでわたしが仕方ない子扱いされるんだ?」


 ふと、夜のホームに立っていた恋を探す少女を思いだす。


 ……様々なルールを作り、多くの事柄を自動化し、自らの手から僕たちへと任せてきた。そしてそんな僕たち自身が、無数のルール(プログラム)で成立している。


 それでも。僕たちがやっていける根幹は、好意頼みなんだよな、と。

 彼女に手を引かれながら、その事を考えた。



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