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海里の果て  作者: 黒霧
源流探検
36/57

some parts of the world(1)

「あら。あなたは……」

「どうも。女仙人さん」

「仙人?」

「そう言われてるんですよ、あの人」


 海の臭いの濃い場所だった。まあ港なんだから当たり前だけど。

 岬だけが生き残っていた港はずいぶん様変わりしていた。以前はスクラップの山が占領していたコンテナ置き場の埠頭は綺麗に掃除されていて、表面にクラックがあったりはするけど、スクラップはどこにもない。


 こうしてみると、枯れ木も山のにぎわいとという言葉を思い浮かべてしまう。綺麗であることは楽しいとは限らないというわけか。つまり、前に乗り込んだシグレの整備車がごっちゃりしていたのも。


 まあそれぞれ楽しく生きるのはよいことだ。深く考えると首を絞められそうだったので思考停止。


「あのスクラップの山はどこに行ったの?」

「わたしはよくは。ただこの間、瞳を尋ねてきたドールがいて、その方が」

「ドールが?」

「はい。それなら、北のプラントで暇をしている方がいるから呼んでおく、と」

「へえ。プラントなんてあったんだ」

「そのようですね」


 それは朗報だ。しかし暇でないのは困った。もしも忙しかったら、協力させる理屈を考えなきゃならない。


 忙しいといいなあ。


「ああ、あなたでしたか」

「お久しぶりです、仙人さん」


 岬で風に当たっていると、灯台からゆっくりと歩いてきていた仙人がようやく到着した。彼は僕を見て目を細めた。


「……以前より、ずいぶん雰囲気が変わってますね」


「そうですか?」

「はい。なんとなく」

「竜の瞳ともなるとやっぱり違うんですかね」

「まあ。そういうシステムですから」


 苦笑する仙人の横で、女仙人がなぜか唇を引き結んでいる。

 そっちもずいぶん雰囲気が変わった。……結局、雰囲気なんて、環境が決めるものなのかな。


「竜の作り方って知ってますか?」

「知りませんよ」仙人は目を丸くした。「なんですか突然」

「作ろうかと思って」

「はあ……なんでまた」

「作るのが大変そうなので」

「大変だとは思いますが……いやしかし、竜の作り方を知ってるCBなんているのかな」


「どういう事ですか?」

「竜はCBが作ったものですが、それは設計専門のCBが作ったんですよ。そもそもそのCB自体が竜の原型だとも言われています。元はワールドシミュレータとして建造されたもので、院生の研究課題だったと覚えています」


 さすがは竜のパーツ。詳しい。


「そこから始まり、竜という名前の付けられたハードにどんどん移植される事になって……」

「竜のハードってどんな形をしているんですか?」

「規定はありませんよ。言うなれば生命としての形をしていれば何でもかまいません。分子レベルで調整可能な環境維持システムとして建造されたので、竜の仮想人格だけはどのようなハードにも適合できるのです」

「でたらめですねえ……」

「まあ、この世のあらゆる生命を運ぶノアの箱船ですからね……」


 となれば、僕たちは洪水に飲み込まれた悪党というところか。……世界を滅ぼすなんて、神様はきっと悪党に違いない。

 僕は笑った。それくらいなら僕でもなれそうだな。


 まあ僕がやるのはシグレの手伝いだけど。


「じゃあさ、こんな竜がいいとかある?」

「なんですかそれは」仙人は苦笑した。

「これから作るから、アンケートを」

「わたしの意見を聞いてどうするんですか?」

「でしたら」


 女仙人が口を開いた。僕はそちらをみる。


「埠頭の地下にあるマザーフレームを使ってくれませんか?」

「いいけど、なぜ?」

「あれはほぼ機能停止しています。元は別の竜だったのでしょうが……。もしもまた在る事を求められるのなら、使って欲しいと思います」

「いいよ、わかった」


 まああれはシグレも調べていたし、なんとかしてもらおう。

 でもさ、


「じゃあどんな竜にしたい?」

「どんな……と言われましても」

「星を砕けるようなやつとか」

「無理でしょうそれは」

「目指してみたらおもしろいかもよ」

「ずいぶん変わりましたね」仙人は再び言った。「おもしろい、ですか。あの方は恋を探していましたが……最近は変わったCBが多い」

「……」


 ああ。彼女だったのか。


「あなたが来た後にやってきたドールがいましてね。不思議な方でした」

「僕も会ったこと在りますよ」


 『わたし達はみんな望まれて生まれたはずなんです。誰一人として、望まれなければ生まれなかったはずなのです。だからそこには、何かがあったと思うのです』


 いざ作る側に回れば、その問いの答えは明白だった。

 必要だから作るという理由がある。

 作ることが楽しいからという理由もある。

 実のところ、作ったあとの事なんて、作り手は考えちゃいないのかもしれない。


「そうか……」


 まあ。自分の手で作った竜が同じ目にあうのはおもしろくないし、それも新しい問題として、解決しなくちゃいけないな。

 解決できるのだろうか。


「……あのさ」


 仙人を見る。もう一度だけ、問いかける。


「僕は変わったように見える?」


 仙人はうなずいた。迷いなく。


「そっか」

「それがどうかしたのかな?」

「大したことがね」


 つまり。変わった理由、きっかけ、そのアルゴリズムがどこかしらにあるはずだ。

 それがわかれば、きっと問題は解決できるだろう。


「うん。結構いい助言になったよ」

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